吉川、山口両氏による緊急警告第2弾では、金融危機前の米国に蓄積していたさまざまなひずみ、金融リスクの積み上がりを検証する。不動産価格の上昇、それを支えた融資の急拡大、融資を証券化した商品の急増、危機前には異変と思われなかった事象が、その後の危機を引き起こす要因となっていった過程を振り返る。
住宅は7年強で8割、商業用不動産も6割上昇
金融リスクを単一の指標を通して知ることはできない。言い換えれば、リスクは総合的に評価されなければならない。リスクの総合的な評価をどう行うか、それを探るために、2008年の世界金融危機の前後において、米国の資産市場などでどのような変化が起きていたかを見ることにしよう。
金融リスクが積み上がる過程では、各種の資産価格が上昇するとともに、各経済主体の債務が増加し、さらに企業、家計、金融機関などが積極的にリスクを取るようになっていくことが分かっている。このことを念頭に置いて、当時の市場等の変化を具体的に見てみる。
金融危機前後においては、住宅価格、商業用不動産価格といった資産価格は、通常の変動幅を大きく上回る変動を示した。前節で見たように、資産価格の大きな変動は、常識的には「バブル」という言葉で定義されることが多い。
金融危機前の米国の住宅市場では、低所得層を含めた住宅需要は、先行きの所得増加予想と住宅価格上昇期待とが相まって、大幅に増加した。新築住宅の供給戸数も、住宅関連企業の積極的な姿勢を背景に大きく増加し、中古の住宅在庫も払底に近い状態となった。
そうした住宅の需給環境の下で、住宅価格は、2000年1月以降07年2月のピークまでの間、平均年率で9.1%もの上昇を示した(この間の累積上昇率は83.6%)。1990年代(90年1月~99年12月)の住宅価格の平均年率の上昇ペースが2.9%であったことを考えると、いかに高い上昇率であったかが分かる。
08年の金融危機後は、極端な逆回転となった。住宅価格は、ピークから12年2月までの間、平均年率で5.9%下落した(この間の累積下落率は26.0%)。市場のセンチメントが大きく変わると、それに応じて住宅価格も、価格上昇期には想定されていなかったようなペースで急落していった。
商業用不動産の市場を見ても、金融危機前の需給は著しく逼迫した。2000年1月以降07年8月までの間、平均年率で7.0%もの上昇を続けた(同時期の累積上昇率は60.9%)。この背景には、ITバブル崩壊後高めの成長と緩和的な金融環境が続く中で、先行きの景気への楽観論が異常に高まり、これが企業による商業用不動産の需要を急増させるとともに、不動産業や建設業などの不動産供給ペースを前倒しさせるといった事情があった。