製造業の「2009年問題」が浮上している。電機・自動車などの製造現場を支えている「派遣」労働者の雇用期間が、いっせいに3年を超え、メーカー側は「派遣」契約をいったん打ち切るか、直接雇用に切り替える(正社員化する)義務を負う。メーカーが急激なコスト上昇を受け入れるとは考えにくく、労働力不足が発生するかもしれないのだ。国内製造業が機能不全に陥る危機だ。

 「事の重大性に気づいているメーカーの経営者はほんのひと握り。大多数は認識すらない」

 山梨県南アルプス市に本社を置く人材派遣会社、ヒューコムエンジニアリングの出井智将社長は頭を悩ませている。

 出井社長の頭痛の種は、製造業の「2009年問題」である。一般にはなじみの薄い言葉だが、製造業の根底を揺るがす大問題だ。

 順を追って説明しよう。まず、ほとんどの製造現場では、「請負」「派遣」という非正規社員が数多く従事している。「請負」と「派遣」の違いは、指示・命令系統だ。人材派遣会社の現場責任者が指示・命令を出すのが「請負」。メーカー等の受け入れ先企業がそれを出すのが「派遣」である。

 2004年3月、労働者派遣法の改正によって、製造業への「派遣」が解禁された当時は、雇用期間は一年に制限されていたが、2007年3月以降は3年まで延長された。この期間延長を見越して、2006年以降、「請負」から「派遣」へのシフトが進んだ。

 昨年7月以降の“偽装請負”の社会問題化もまた、「派遣」シフトを加速させた。偽装請負は、請負労働者に対して、メーカーが指示・命令を出す違法行為だ。実情は「派遣」であるにもかかわらず、雇用期限のない「請負」を装っていた。マスコミに糾弾されたのは、松下電器産業やキヤノン、トヨタ自動車といった大手トップメーカーだった。だが、違法行為を繰り返してきた中小企業も含めて、「約9割は請負から派遣へ切り替えた」(人材派遣会社幹部)。

 2006年に急加速した「派遣」シフトは、思わぬ障害となって現れる。