貿易政策を巡る不確実性がもたらす2019年の
経済成長の下振れ(IMFによる試算値)
注目の9月の金融政策は、ユーロ圏・米国は追加緩和、日本は現状維持だったが、経済物価の情勢判断には共通点が相当見られた。雇用・消費は良いが、世界経済の減速や貿易摩擦の影響で輸出・生産は弱めで、物価は目標に届かず、貿易政策とそれを巡る不確実性による下振れリスクが大きいといった点だ。
貿易政策への関心は、経済見通しを作成する国際機関でも高い。国際通貨基金(IMF)では、貿易の不確実性の高まりが世界経済の成長鈍化の主要因だとし、世界の貿易政策の不確実性指数(WTU指数)を作成してその影響を試算している。この指数は米中貿易摩擦に沿った動きをしているが、今年の第1四半期の上昇は特に大きく、それは今年の世界の成長率を0.75%ポイント低下させるのに十分な大きさだと分析している。経済協力開発機構(OECD)も貿易摩擦を主因に世界の経済見通しを金融危機以降最も低いものに修正し、貿易摩擦と政策の不確実性を下振れリスクとしている。
なお、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は記者会見で、追加緩和を今回も「リスクへの保険」と位置付けたが、黒田東彦・日本銀行総裁も講演で、政策運営では「リスク予防的・保険的な対応を意識」しており、同様のスタンスだと述べている。
ただ、貿易政策とその不確実性の強まりが下振れの主因であるとすると、下振れの震源地が外生要因かつ変動しやすいので、下振れ懸念の高まりの段階で予防的に政策対応すると、緩和が行き過ぎる可能性がある。様子見をしていた企業が貿易制限を前提に新しい生産体制を見据えて、投資に動きだす可能性もある。貿易制限によるさまざまなコスト増が消費者に転嫁されると消費者物価に上昇圧力がかかる。
日米欧の政策判断材料に共通部分が多々ある中、予防を重視するとそろって行動し、グローバルにもっと過剰反応となる可能性が高まる。追加緩和については、物価の動きが一時的かどうかを含め、貿易政策を巡る不確実性の程度とその影響をしっかりと分析した上で慎重に判断すべきだ。
(キヤノングローバル戦略研究所特別顧問 須田美矢子)