バブル崩壊後の低成長時代を通して、働く職場の環境は大きく変わりました。インターネットをはじめICT(情報通信技術)が普及したこともあり、多くの職場で仕事が断片化し、働く人の周囲との協業が減りました。その結果として、職場における人と人とのコミュニケーションも希薄になり、例えば困った時に気軽に相談できる相手も、機会も減ったように感じられます。このような変化に対応するために、働く人がイキイキと仕事をすることをバックアップする仕組みはさまざまな広がりを見せてきました。また、企業の経営者にも理解のある方が増えてきたように感じられます。
ただ、一方では現場を支えるキャリアコンサルタントの迷いや悩みは尽きません。相談機能が大切である、との総論賛成の空気は社内にあったとしても、社員が気軽に相談に訪れる存在になるためにはハードルもあります。また、利益を上げる部門ではないために、その存在理由がなかなか認められない、というような事例も散見されます。
こうした課題については、担当者の努力によって、かつ時間の経過によって改善に向かうものもありますが、なかなか超えられない壁もあるでしょう。
本書は、そのような現場で努力を続けるキャリアコンサルタントのみなさんに私の経験に基づくアドバイスを提供し、その活動をバックアップすることを一つの目的としています。加えて、その手前の段階にいる方々、つまり社内組織としてキャリア相談の部屋を持ちたいと思いながら、経営陣の理解がなかなか得られないで苦労をしている方にも、組織立ち上げのためのヒントを提供したいと考えています。
もちろん、社内事情はさまざまですから、本書で示す知見や手法が、どの会社にも普遍的に通用するわけではないでしょう。それでも、本書が何らかの励ましとなり気づきを生み、読者のみなさんの取り組みを半歩でも進めるための手がかりになるなら、これほど嬉しいことはありません。