治療薬写真はイメージです Photo:PIXTA

効果が見込めるがん患者に対して安全性にも配慮した上で、治療薬を選択するには、ある治療薬がどのような患者にどのような影響を及ぼすのかといった情報が必要不可欠だ。そしてその臨床データや遺伝子異常のデータといった情報が厚みを増せば、新たな治療薬・検査法の開発にも直結する。わが国では、その包括的な仕掛けとしてがんゲノム情報管理センター(C-CAT)と呼ばれる情報インフラが構築された。本インタビューでは、がん研究の概況から、C-CATの整備状況やわが国にとっての重要性などについて、国立がん研究センター理事の間野博行氏に幅広く話を伺った。(聞き手/三菱総合研究所 ヘルスケア・ウェルネス事業本部 谷口丈晃、林俊洋、飛田弥咲)

がん細胞を効率よく攻撃する
分子標的薬のインパクト

33間野博行氏 国立がん研究センター 理事・研究所長/がんゲノム情報管理センター長。EML4、AKLという遺伝子が融合する現象が肺がんの発症を引き起こすケースがあることを発見。ALKの阻害剤と呼ばれる治療薬につながっている。その薬剤耐性獲得に関わる遺伝子異常の発見や、検査法の開発など、がんの発症メカニズムの解明、がんゲノム医療に貢献。EML4- 2016年から国立がん研究センターの理事・研究所長、2018年からはがんゲノム情報管理センター長を務め、日本のがんゲノム医療を牽引している。

―― 一般的な治療で分子標的薬が使われるようになり、近年、がんに対する治療がものすごい勢いで進歩しているといわれていますが、これまでの治療とどのように異なるのでしょうか。

 従来は化学療法、放射線療法、外科手術療法といった治療法が用いられてきました。中でも化学療法で用いられる治療薬は殺細胞薬とも呼ばれるもので、基本的には細胞にとって毒として働きます。がん細胞をより強く攻撃するのですが、同時に正常細胞も攻撃してしまうのです。そこに「分子標的薬」と呼ばれる治療薬が登場しました。これはがんの本質的な原因となっているタンパク質の機能を抑制する治療薬です。遺伝子の異常(多くは、遺伝子変異)を見つけて、それに対応する分子標的薬を投与すると劇的に効くケースが多いことが明らかになりました。

――遺伝子異常とがんとの関係性が分かってきたということでしょうか。

 そうですね。例としては、これまでは肺腺がんというある1種類のがんだと思っていたものが、異なる遺伝子異常によって引き起こされているさまざまながんの集合であることが明らかになっています。EGFRという遺伝子に生じた変異によっても、ALKという遺伝子の融合によっても肺腺がんが発症することが分かってきました。

――検出された遺伝子異常によって治療法が変わるということでしょうか。

 治療法は大きく変わります。従来のように、同じ臓器のがんなら治療法も同じ、というのではなく、がんを診断する際に、がんに関連する遺伝子の異常を検査し、その結果から最適な治療薬を選択するというようなオーダーメードの治療が可能になる、これが「がんゲノム医療」です。その際の治療薬の選択肢としては、少なくとも、国内で保険適用されている治療薬と、臨床試験で効果と安全性が検証されている治療薬が対象になります。