金融機関の健全化を図るため、昨年末から金融庁は対応策を打ち出している。代表的なものが公的資金注入を柱とする改正金融機能強化法、そして不良債権に区分される一部債権の取り扱い緩和だ。世界的な金融危機の状況下だとはいえ、いずれも抜本的な解決にはなっておらず、将来に禍根を残す可能性をはらんでいる。
「赤字決算など初めての経験。有価証券の減損処理などによって自己資本が毀損する事態に備えて、資本増強対策をしっかりと果たさなくてはならない」
2008年9月中間決算で、持ち株会社設立以来、初めて赤字に転落した札幌北洋ホールディングス。昨年12月、横内龍三社長は本誌のインタビューに応じてこう答えた。
有価証券の運用につまずいたことで150億円もの損失を計上。融資先企業の業績悪化に伴い与信関連費用も増加したことで、「万が一、預金が流出するような事態も想定して、手元流動性を厚くしている」と危機感を抱き、資本増強の可能性にまで言及していたのだ。
ただ、あくまでも自力による増資を示唆。昨年末に成立した改正金融機能強化法に基づく公的資金の注入については、「現実問題としては考えていない」ときっぱり否定していた。
ところが、年が明けた1月19日、札幌北洋は公的資金申請の検討に入ったと発表。3月末までの払い込みを希望するなど、態度をがらりと変えてしまう。
わずか1ヵ月あまりの間に何があったのか。複数の金融関係者が、その背景に「金融庁の圧力があった」と口を揃える。
というのも、改正法成立後、1週間も経ずして施行するなど、異例の早さで環境を整備したにもかかわらず、健全ではないとの風評が立つことを恐れて、手を挙げる銀行が皆無だったからだ。
年が明けても動きはなく、膠着状態を危惧した中川昭一金融担当大臣が一部メディアで強制的な一斉注入に言及するなど、金融当局の焦りは募るばかりだった。
そこで白羽の矢を立てたのが札幌北洋だった。第2地方銀行協会の会長行で、持ち株会社ベースの自己資本比率が9.2%と、国内で営業する銀行に定められた自己資本比率規制の4%を大きく上回っていたためだ。