ディープテックで行こう!コンピューター&ロボット企業編Photo:123RF

コンピューターが人間並みに賢くなる。ロボットが人体を拡張してくれる。特集「ディープテックで行こう!」(全14回)では、#9~10の2回にわたって、そんな最もドラマチックな変化が起こる世界である「コンピューター&ロボット」分野で注目の「ディープテック」を紹介する。#9は同分野の注目ベンチャー企業8社をお届けする。

「週刊ダイヤモンド」2019年10月26日号第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

コンピューター&ロボット 注目ベンチャー企業1
【Telexistence】
手の触覚を持つ遠隔操作ロボ

遠隔操作ロボ関節やセンサーが付いた同社ロボは、遠隔操作でも振動や圧力、温度が手に伝わってくる Photo by Chiyomi Tadokoro

 日本のコンビニエンスストアの数は約5万5000店舗。ドラッグストア、スーパーも合わせるとおよそ10万店舗もの小売店が存在している。そして今、その多くがスタッフの人手不足に苦しんでいる。オーナー家族が日夜働き続けて、なんとか日々の業務を回しているような店舗も少なくない。

 こうした人手不足の課題をロボットで解決しようと、ユニークな挑戦を始めようとしているのがTelexistence(テレイグジスタンス)だ。

 つまるところ、コンビニの日常業務の半分近くは品出しであり、150種類ほどの形状の違う商品を1日3000個も陳列しなければならない状況にある。そこで、同社はコンビニの商品陳列などの作業を遠隔操作で行えるロボット「Model H」を開発。来年の夏から実際に、店舗への導入を始める予定となっている。

富岡仁CEO「ロボットの力でコンビニの人手不足問題を解決したい」との構想を語るテレイグジスタンスの富岡仁CEO Photo by C.T.

「ロボティクス、バーチャルリアリティー、通信ネットワークの技術を総合的に活用し、いわば『自分のアバター(化身、分身)』をつくり出す。それによって、遠くにいる人でも、ロボットをリアルタイムで遠隔操作することが可能になるのです」と話すのは、同社CEO(最高経営責任者)の富岡仁氏だ。

 通常、コンビニのアルバイトは生活圏から半径2キロメートル以内の人しか勤めようと思わない傾向にあるというが、テレイグジスタンスのロボットならば極端な話、世界各国の人たちに遠隔操作してもらうことも可能だ。

 国内のみならず、海外から在宅勤務をしたい人などからも、ロボットを使った“遠隔コンビニ店員”の仕事を欲する人はいるのではないか――。そのようにして、「人件費の安い地域の方にお願いすれば、コストダウンにもつながる」(富岡氏)というわけだ。

 テクノロジー面では、何が重要となるのか。それは、物を「把持(はじ)」する能力だという。

 富岡氏によれば、同社のロボットでは人が物をつかむとき、それぞれ関節がどの角度でどれくらいの力をかけているかという部分を高い精度で再現している。ロボットの手には13の関節が付いており、これだけ付ければ、ほぼ人間の手と同じ動きができるそうだ。

 さらに、ロボットの手には複数のセンサーも付いており、振動と圧力、温度の三つがグローブから手に伝わってくる。つかんだ感触は非常にリアルで、「ほとんど違和感なく把持できる」という。

 この作業を将来的にはAI(人工知能)が自動化できるように、これから始める遠隔操作に関する大量のデータを取り込み、機械学習も進めるという。そして、今後4年間で少なくとも1000台のロボットを全国の小売り現場で働かせたいとの野心を燃やしている。