岩手県盛岡市出身。仙北小、仙北中、盛岡一高を経て2000年、岩手医科大学医学部卒業。同年、自治医科大学地域医療学教室に入局。2009年、自治医科大学大学院を卒業。全国各地での勤務を経て、2015年4月に診療所を開設。現在、岩手県盛岡市仙北町で「なないろのとびら診療所」を運営している。総合診療をベースに認知症診療と在宅医療に集中する、自称「患者バカ町医者」。
なないとのとびら診療所:https://kotonoha-group.co.jp/clinic
松嶋:こういうのを、テクニカルには「解釈モデル」と言うんです。
「それについてあなたはどう思いますか?」と聞くと、「いや、かくかくしかじかでこう思っているんです」と言われ、「へー、興味深いね。でも一応、医学的にはそれは違うよ」と言ってあげたりすると、「ホッとしました」と言われたこともありました。だから僕らも「なんだ、そんなことを心配していたんだ」と思ったりしますよね。
後閑:いちいち聞くことが大事っていうのが、よくわかりました。
松嶋:綺麗事ですけど、僕は単に興味があるだけです。
テクニカルにやっているというよりは、興味があるからやっているという感じです。
「どうしてそんなことを聞くんですか」と言われることがありますが、興味があるから聞くんですよ。
自分で言うのもなんですが、本当に僕もよく聞いたな、というのが、患者さんに「ちょっと聞いても、いいっすか。言ってもいいかなー。聞いてもいいかなー」なんて言いながら、「なんで死なないんですか?」「なんで生きているんですか?」と聞いたこともあります。
後閑:えー!!!
松嶋:「えっ、何その質問! ひどい! 何しにきたんだ!」という感じですよ。
でも、「いやいや、医者の経験から言うと、今日あなたと会うことは通常ありえない。当たり前に行けばよくても1年前に亡くなっている。普通、この病気は、しばらくはいいんですが、最後の1ヵ月はラッシュですから。
寝たきりになると、ガタガタと悪くなっていき、だいたい1ヵ月くらいで亡くなってしまうことがありますから、数か月前から寝たきりになっているのでしたら、もう今日はないはずだ。それなのに、なんで生きているんですか?」と聞きました。これは我ながらよく聞いたと思いますよ。
後閑:そうですよね。それで、なんと返ってきたんですか?
松嶋:その人は医者不信で、ずっと治療を拒否してきた人だったので、「医者にかからなかったから、それがよかったんじゃないの」と。
「確かに、余計なことをされずに自分でやってきたから、今日があるのかもしれないですね」と言うと、「そうだと思う」と。そのあとも薬は飲みたくないとゴネ始めたので、「わかった。そんな嫌な気持ちで薬を飲んだら、薬がかわいそうだ」と言いました。
後閑:薬の視点ですか(笑)。
松嶋:「『お薬ありがとう! 効いてちょうだい!』と飲むのであれば効くけど、『薬なんか飲みたくない』と思って飲めば、薬だって腹が立つ。なので、薬に申し訳ないから、あげません。でも、これだけは約束して。何かあったら来ます。けれど今は医者いらずでいいでしょう」と言い、その日は終えました。
後閑:患者さんに怒られたりはしませんか?
松嶋:僕だって、言う人は選びます。言ってもいいと思える人だけです。
後閑:ですよね(笑)。でも、それまでの医者不信も否定しなかったのは、本人にとっては救いだと思います。
「なんでもっと早く病院にこなかったの! なんでもっと早く治療しなかったの!」と医師に言われてしょげている患者さんやご家族もたくさんいますから。
松嶋:まあ、単に興味があったから聞いただけなんですけれどね。
後閑:いや、本当に松嶋先生のように、家族優先ではなく患者さん優先という先生に私も看取られたいですし、私の家族の看取りも支えてほしいです。本音でつきあえる関係性というのはいいですよね。
もう一つお聞きしたいのは、看護師とか医療者に注意してほしいこと、松嶋先生が普段看護師さんにこういうことに気をつけるように言っていることなどありますか?
松嶋:いくつかあります。
1つは、とにかくこれは僕の口癖で、「それはあの人にとって最善か?」とよく言います。
僕らは、自分たちの物語があるから、自分たちの物語を捨てる必要はないという考えです。
ですから、「一緒に徹底的に話し合ってこい」と言うのですが、「〇〇さんには点滴をしないほうがいいと思います」と言われたら、「それはあの人にとって最善か?」とまずは聞くのです。
2つ目は、次はもう会えないと思って、今日最善を尽くす。
3つ目は、一貫して本人であること。