中国人が心底喜ぶ
「中華料理の味」とは
私は東京のわが家の近くにある「百宴香」という庶民系レストランで、時々食事をしている。先日、自宅のネット環境を整備するために、ITに明るい中国・貴州省出身の若手社員、C君の手を借りた。仕事が終わったあと、感謝の意を表す意味も兼ねて、彼を食事に誘った。
百宴香で裏メニューにある陳皮牛肉、臘肉炒菜、レンコンの紫蘇漬け、自家製春巻、高菜チャーハン、酒醸圓子などを注文した。結果から言うと、これらのメニューを組み合わせる作戦は大成功した。無口な好青年であるC君は、目を大きく見開いて料理の味に感激した。「休日に奥さんを連れて食べに来たら?」と提案してみたら、すぐにうなづいてくれた。
前述の「陳皮牛肉」とは前菜の1つである。陳皮とは、熟したミカンの果皮を干したもののことをいう。漢方薬の原料の1つでもあるが、医食同源の中国では、中華料理の調味用食材としても使われている。その陳皮を生かしてできた陳皮牛肉は、醤油をベースにしたソースに長時間漬けられたため味が濃いが、ほのかなミカンの香りもあり味に深みを見せている。
旧暦の12月は、中国では臘月ともいう。その月に中華風に燻製した豚バラ干し肉やソーセージは、「臘肉」「臘腸」と呼ばれる。広東省、広西チワン族自治区、貴州省、雲南省、湖南省などの山間地帯では、自宅で臘肉や臘腸をつくる風習が今でも残っている。
臘肉と野菜の炒め物は私の好物なので、中国の出張先で1人で食事するときは、私は結構このメニューを注文する。ついでに言えば、「回鍋肉」「農家小炒」(豚肉と唐辛子の炒め物)を頼む頻度も高い。これらのメニューに使われている豚肉は、新鮮な肉の場合もあるが、臘肉が使われるケースも結構ある。
だから臘肉炒菜を注文したのは、貴州省出身のC君への配慮もあるが、自分が好きだった理由もある。郷愁を呼び覚まされたのか、無口なC君も「東京で自家製臘肉が食べられるなんて、信じられない」と喜びを隠さなかった。
酒醸圓子(ジュウニャンユアンズ)は、ご存知の読者もきっと多いと思う。ここでいう酒醸とは、米からつくった中国の発酵食品のことを指す。日本の甘酒タイプの濁り酒に近いが、イメージも内容も相当違う。天然甘味料として中華料理に使うケースも結構ある。