「ドライバレス」でも
安全性に問題はない

 これまでは、運転士免許を持つ乗務員(運転士)が運転操作とドア操作、車内放送などの対応を一手に引き受けていたが、ATOによる自動運転が実現すれば、運転免許を持たない乗務員が前方の安全確認をしながら車掌業務を行うことになる。

 ドライバレスと言っても、乗務員経験のない「素人」が添乗するわけではない。「車掌以上運転士未満」の乗務員が乗務し、非常時の対応なども行うので、安全性のレベルが下がることはない。運転操作を含む全ての業務を1人の運転士に任せるより、ヒューマンエラー防止や負担軽減も期待できるだろう。

 一方で言い換えれば人員削減が可能なわけではなく、乗務員に求められる要件も大きく変わるわけではない。ただ運転士免許が必要なくなるだけである。これだけ見ると、そこまでしてATOを導入する必要があるのか、疑問に思う人もいるかもしれないが、運転士の養成には長い時間と費用を要する。JR九州は現時点では要員確保に問題はないとしているが、今後の人材難を見据えた中で、余裕があるうちに手を打っておきたいというのが本音のようだ。鉄道全体でみれば、JRのように比較的余裕がある会社より、既に人手不足に直面している地方ローカル線への導入の道が開かれる方が効果は大きそうだ。

 実現に向けたハードルは法令上の整理にある。鉄道の一種である新交通システムでは既にドライバレス運転が実用化されているが、導入には踏切のない高架線やトンネルなど、立体交差構造であること、駅にはホームドアがあること、ATCをベースにしたATOが設置されていることなど、高いハードルが課せられている。

 このままでは、踏切などのある一般的な鉄道路線に自動運転を拡大することは不可能である。そこで国交省は2018年から「鉄道における自動運転技術検討会」を開催し、こうした路線に自動運転を導入する場合の技術的な要件を見直すための検討を始めており、今年中に中間報告が取りまとめられる予定だ。

 検討会では都市部の過密路線向けに、ICTやセンシング技術を活用した安全対策の検討も進められているが、JR九州のようなローカル線においては、人間が目視で確認し、必要に応じて非常停止するという方がシンプルかつ安価で、問題もないだろう。

 ちょうど1年前、JR九州に先んじてATO試験走行を行った山手線では、先端技術を用いた安全対策の検討を含め、課題の整理を行っている段階だという。条件の違いはあるとしても、山手線よりも先にローカル線におけるATO運転の目途が立ちつつあるのは、これまでの鉄道業界では考えられなかったスピード感であり、危機感の表れと言えるかもしれない。

 JR九州は、検討会の結論が出て、国土交通省から認可が得られることを前提に、2020年中に営業列車による実証運転を実施したいとしており、技術基準が改正されれば、すぐにでも香椎線にドライバレス運転を導入する意向だ。

 ローカル路線におけるATO運転が地方の鉄道維持の切り札となるのか、JR九州が踏み出した小さくとも大きな一歩に注目したい。