「あのころマスコミは、『あなたなら切除しますか、しませんか』などの街頭インタビューを繰り返していましたが、当事者の気持ちは、当事者にしか分かりません。社会はもっと、遺伝性乳がんについて学び、理解してほしい。アンジェリーナさんのように、本当にリスクが高くて、切除したいと思う方がいるのなら、経済的な状況によらず、選べるようサポートする体制は整えるべきです」

 そう話すのは、聖路加国際病院ブレストセンター長として、遺伝性乳がんを多く診ている山内英子さんだ。

 乳がんは女性の11人に1人が発症し、40~50代女性ではがん死亡原因のトップに位置する。ただし、早期発見すれば予後はよく、治療の選択肢も豊富なため、生存率の方もあらゆるがんの中でもトップクラス。それゆえ、長期間の治療と経過観察を続けながら、人生を送らざるを得ない女性も大勢いる。

 遺伝性乳がんは、そんな乳がんの5%を占めており、遺伝子検査によって高い精度でリスクを知ることができる。

 乳がん患者の3~5%は、遺伝性のがんの原因とされるBRCA1、BRCA2遺伝子に変異があり、この変異を持つ女性が、一生のうちに乳がんを発症するリスクは変異のない人の9~12倍、卵巣がんでは8~60倍にもなる。また男性でも、この変異がある場合には、乳がんや前立腺がん、膵がんを発症することがある。

 加えて遺伝性乳がんは、通常の乳がんより10~15歳若い、20~30代前半で発症するという特徴がある。

 通常の乳がんは40代以降に発症する率が高いため、自治体からの検診クーポンが送られてくるのも40歳になってからが多く、40歳未満での検診は自費となる。

 一生のうちに発症するリスクが「乳がんで9~12倍」「卵巣がんは8~60倍」――この数字をどう受け止め、どう対処するかは患者本人が選ぶ。

「この6年間で、遺伝性乳がんをめぐる状況はだいぶ変わって来ています。ゲノム医療もどんどん進歩しているんです」

 と語る山内さんに、これまでの変化とこれからについて聞いた。