原油相場は昨年12月から今年1月にかけて押し上げ材料が相次いだにもかかわらず、上値は重く、足元にかけては弱含んでいる。
12月6日にはOPEC(石油輸出国機構)にロシアなど非OPEC産油国を加えた「OPECプラス」の閣僚会合が開催された。減産幅をそれまでよりも日量50万バレル拡大して、2020年1~3月に170万バレルの減産を実施することを決定した。サウジアラビアは割り当てを上回る減産を行う意向を示し、実質的な減産量は210万バレルまで膨らむとされた。
12月13日には、米中両政府が貿易協議で「第1段階」の合意に達したと発表し、1月15日には合意文書への署名が実現する運びとなった。米中貿易摩擦による景気失速やエネルギー需要減退への懸念が後退した。
地政学リスク要因も原油高の材料になった。米国時間の1月2日夜に米国防総省がトランプ大統領の指示を受けてイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害した。イランの最高指導者ハメネイ師は米国への報復攻撃を警告した。産油地帯である中東からの原油供給に障害が及ぶ事態が懸念された。
1月8日には、イランは報復として、イラクにある米軍の駐留基地2カ所をミサイルで攻撃し、原油相場は急騰した。欧州北海産のブレント原油は1バレル当たり75.75ドル、米国産のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は65.65ドルを付けた。しかし、トランプ大統領は演説で「軍事力は行使したくない」と述べ、軍事的緊張はやや緩和したと受け止められて、相場は下落に向かった。
1月19日には、リビアで軍事組織がパイプライン等を封鎖し、主要油田が操業を停止したが、相場への影響は限定的だった。
足元の原油相場は、ブレントで60ドル前後、WTIで50ドル台前半と、米軍によるソレイマニ司令官殺害前の水準に戻した。米国とイランとの対立が深刻化することへの警戒感は後退したと見られ、原油市場参加者の視線は、需給動向に戻ってきている。
暖冬や景気減速の影響で、最大消費国の米国の石油製品需要が伸び悩み、在庫が高水準となっている。今後、石油製品の生産調整が必要となり、原油の供給過剰感が再び強まるとの懸念につながっている。そうした中、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界景気やエネルギー需要が減退する可能性が懸念されるようになった。
OPECプラスの協調減産強化にもかかわらず、米国の産油量増加もあり、今のところ、原油需給は引き締まる動きを見せていない。当面の原油相場は「横ばい」から「弱含み」で推移しやすいだろう。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)