“大学全入時代”と呼ばれて久しい昨今。教員が授業内容や方法を改善し、向上させるための組織的な取組――所謂「ファカルティ・ディベロップメント(FD)」の重要性はますます高まってきているといえる。
FDの実践項目は「教員相互の授業参観」や「教育方法改善のための授業検討会の開催」等、多岐にわたる。だが、とりわけ耳目を引きやすいのが「授業評価アンケート」だ。文科省の調査によれば、平成19年度における授業評価の実施校は、国公立と私立を合わせて約77%に上る。いまや大学の講義の良し悪しは、学生たちが決める時代だ。
その「授業評価アンケート」も、いまやITを駆使して行う時代である。昨年、大阪工業大学において約8000名の学生を対象に、モバイル端末を利用した「授業評価アンケート」を実施した「Cラーニング」を始め、大学のFD活動を支援するサービスは枚挙に暇がない。2008年以来のFD導入の義務化は、大学の質の向上を目的としているが、その反面、大学側に相当の労力を強いていることも否めない。コスト削減を図ることのできるFD活動の一部外注化は、大学にとってもありがたい存在ではあるだろう。
一方で、学生たちによる「授業評価サイト」も花盛りだ。例えば楽天が運営する「みんなのキャンパス」には、履修者の授業評価情報71万件がアップされている。「単位取得度」「内容充実度」「テストレポ」「教科書有無」「履修者の感想」などの情報を、全国の大学の授業から検索可能だ。トップページには「授業満足度ランキング」が掲載されており、そこには大学名のみならず、担当教師名もしっかりと記載されている。
閲覧にはユーザー登録が必要だが、一部概要は見ることができる。概ね「面白い」といった意見が目立つが、中には「先生が左翼っぽい」「とても眠くなる」といった辛辣なコメントもある。学内でとどまるならばともかく、オープンな場所での評価の公開は、学校関係者にとっては痛しかゆしといったところだろう。
さらにスマートフォンの普及が、学生による授業評価の共有を促進させている。その代表例が「すごい時間割」だ。大学の時間割を簡単に作成・管理できるソーシャルサービスで、スマートフォン用の時間割アプリとして単体でも使えるほか、時間割を友達と共有することができる。また、授業の履修者のつながりを可視化したり、講義の空きコマを知らせ合うことも可能だ。2012年7月現在、国内918大学・短大で利用され、22万6000件の授業が登録されているという人気アプリである。
その「すごい時間割」が、このほど「授業評価」機能を公開。これにより授業の満足度や履修アドバイス、出欠の有無、テストの難易度や頻度などが投稿可能となった。「すごい時間割」を使えば、授業の内容はもちろん、同じ講義を受けている人が誰かということもわかる。つまり、スマートフォンさえあれば、いとも簡単に「授業の可視化」ができる。しかもその情報は、学生たちの“生の声”である。大学による「授業評価アンケート」と比較して、学生たちがどちらを参考にするかは、推して知るべしというところだ。
マーク・ザッカーバーグは、大学の友人関係を軸にFacebookを生み出した。「すごい時間割」は、学生に最も親和性の高い“時間割”を軸にしたSNSである。講義を基にして、新たな出会いを創造してくれるツールであり、その点に類を見ない新しさがある。学生たちはもともとスマートフォンやSNSに慣れ親しんでいるだけに、まだまだ広まっていくと思われる。
開発を手掛けた株式会社Labitの鶴田浩之氏は「最終目標は、教育そのものをよりオープンにすること」と語っている。学生による授業評価の是非は、まだまだ議論の余地はある。だが急速なITの普及により、さまざまな情報がオープンになる中、大学だけがそのらち外に居続けることは困難だ。いつまでも“象牙の塔”に籠っているというわけにはいかないのである。
(中島 駆/5時から作家塾(R))