コロナ危機は日本のDXを
急速に進めている
前回記事では「変われる会社」の5つの特徴について述べた。
新型コロナウイルス感染拡大という危機の中で、企業はいま「変わる」ことを余儀なくされている。多くの経営者が、何を守り、何を変えるべきか日夜議論し、新たな指針を打ち出していることと思う。リモートワーク導入やコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)策定など、取り組むべき課題は多岐にわたる。コロナ危機に後押しされる形で、かつてなくアジャイルに動くことが求められている。
特にデジタルトランスフォーメーション(以下DX)に関しては、そのスピード感の劇的な変化に私自身も驚いている。私は仕事柄、DXやデジタルイノベーションに関する相談を多くお受けしてきたが、これまではDXを「数年かけてじっくり取り組めばよい」トピックととらえている経営者が少なくなかった。ところが今回のコロナ危機は、「DXを極めて短いスパンで実現しなければならない」という課題を企業に突き付けている。
政府の要請を受けてリモートワークを導入せざるを得なかったり、取引先との関係を維持するために、やむなく新たなデジタルツールを取り入れたりした企業も多いことだろう。そして実際に新たな環境で事業を進める中で思いのほか業務効率を維持できることを、驚きを持って受け止めた方もいるのではないだろうか。
私はこの危機を、企業のオペレーションを一気にデジタル化する絶好の機会であると考えている。平時とは異なる危機的な状況下において、これまでDXを妨げていた様々な要因がかえって取り除かれつつあるからだ。コロナ危機をDXの契機ととらえ、一気にやり切れるかどうかに「ウィズコロナ」「アフターコロナ」のニューノーム(新たな行動規範)での生き残りがかかっている。
今回は、私がこれまでDXを支援してきた経験をもとに、いま、大企業はどうすればニューノームへ対応し、変革を果たすことができるかを考えたい。
まず、立場を考慮せずに正直に言えば、コンサルティングファームや私が所属するような特殊なサードパーティーを活用しようがしまいが、DXを完遂した事例は世界でも少なく、国内においてはさらに少ない。ボストン コンサルティング グループ(以下BCG)の分析によると、企業の33%しかDXに成功していないとのことだが、私個人の率直な実感としては、少なくとも日本においてはそれよりもはるかに低いのではないかと感じる。
昨年、BCGのグローバルCEOであるリッチ・レッサーが来日した際に、私にこう尋ねた。「日本企業でDXに成功したといえる企業はあるか? あるとすれば、それはどこか」。私は「成功した企業は多くはないが、リクルートは成功例のひとつと言ってよいと思う」と答えた。
リクルートは、1995年のMixJuice、その後のISIZEに始まり、長い年月にわたる挑戦と失敗、試行錯誤を繰り返しながら、今日にいたっている。変革とは決して生やさしい道のりではなく、トップダウンで社員が心を一つにし、5年10年という歳月を覚悟して取り組まなければ実現できないのだと思い知らされる。(その様子の一部はBCG日本代表の杉田浩章の著書「リクルートの すごい構“創”力」に記載されているのでご参照いただききたい。)