米ニューヨークのタイムズスクエア米ニューヨークのタイムズスクエア。普段なら大勢の人でごった返すこのかいわいも、新型コロナウイルス対策による外出制限で閑散としている。この静けさはすなわち、地域経済の停滞でもある Photo:Gary Hershorn/gettyimages

世界最大の経済大国、米国。この国が今、新型コロナウイルスとの泥沼の戦いでもがいている。感染拡大防止のため外出禁止などの対策を導入した結果、経済は一気に冷え込み、大量の失業者が生まれている。失業率は6月に30%超、つまり3人に1人が失業者という史上最悪レベルに達する予想が浮上している。緊急連載『世界経済ロックダウン』の初回では、失業大陸と化しつつある米国の現状をレポートする。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ 取材協力/ジェシカ・キタガワラ=シリコンバレー、カズマ・シモタケ=ニューヨーク)

「レイオフしないと
店が立ち行かない」

「レイオフ(一時解雇)しないと店が立ち行かない。本当に申し訳ないが分かってほしい」。米カリフォルニア州サンノゼのレストランで働いていたアイザック氏(20代、仮名)は、店のオーナーからそう言い渡され、3月下旬までに失業した。

 彼の仕事は料理を給仕するスタッフ。この職種の常として、基本賃金は高給というわけではなかった。だがシリコンバレーの中心地であるサンノゼは、コロナ問題勃発までは全米で最も景気の良かった地域の一つ。特にアイザック氏の働いていた店は地域の名店としてよく知られていた。

 リッチな来店客からもらえるチップ収入は毎月かなりの額に上り、全米屈指の生活コストが高いこの都市で、アイザック氏をなんとか生き延びさせてくれた。このチップ収入どころか、収入そのものがなくなった今、アイザック氏は申請したばかりの失業保険の受け取りを待つばかりだ。

 米疾病対策センター(CDC)によると、カリフォルニア州における新型コロナの感染者数は4月1日時点で8131人に上り、ニューヨーク州、ニュージャージー州に続き全米ワースト3位だ。死者数も200人を突破している。早期から感染拡大が進んでいたため、カリフォルニア州知事は全米でもいち早く、3月19日に州内住民の外出禁止に踏み切った。この結果、外食や生活必需品以外の小売りといった産業が打撃を受けている。これに加え、シリコンバレーに集積するハイテク産業でさえ、ビジネスが急転直下で悪化している。

「素晴らしいチームに参加できることに、とてもハッピーな思いだったのに」。サンフランシスコ在住の20代後半男性、デビッド氏は急成長中のテクノロジー系のスタートアップ企業から内定を取り消されてしまった。その企業は複数のベンチャーキャピタル(VC)ファンドから資金調達を重ね、順調に業容を拡大させていた。デビッド氏は5回の面接の末、この成長企業から内定を勝ち取った。

 だが4月の入社を目前にした3月30日、こう通告されてしまう。「新型コロナの打撃で、わが社のビジネスモデルは崩壊してしまった。あなたの内定は取り消さざるを得ない」。シリコンバレーの新興企業に多いインターネットを使ったサービスは、新型コロナの影響下でも比較的“生存率”が高いといわれる。実際にはライドシェアの米ウーバー・テクノロジーズが乗車数の急減に直面しているように、深刻な経営難に陥った企業が少なくない。デビッド氏はあまりの急展開に、ただぼうぜんとするばかりのようだが、同じ境遇にある米国人は少なくないだろう。