がん患者の希望の光となるか、と期待が高かったがん遺伝子パネル検査。ところが、待望の保険適用が始まって1年足らずで現場には失望が広がっているという。特集『健康診断のホント』(全18回)の#14では、期待の新たな検査に診療体制が追い付いていない実態を取り上げる。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
悲願の保険適用でも使えない
がん遺伝子パネル検査の落とし穴
「がん遺伝子パネル検査の保険適用が始まった2019年6月から、これまで約70の症例を本院では取り扱った。しかし実際に治療に入ることができた患者さんはまだいない。『これでは使い物にならない』と現場の医師のモチベーションが落ちて、最近は検査症例数が下がってきている」と、慶應義塾大学医学部の西原広史・ゲノム医療ユニット長はため息をつく。
がん遺伝子パネル検査とは、一口で言えば、がん細胞の中の100以上の遺伝子異常を一括で調べることができる技術だ。18年12月に2社の検査法について薬事承認が下り、19年から健康保険で利用できるようになった。一つ一つ異なるがんの様相を詳しく検査し、分子標的薬などの薬の効果があるかどうかを調べることができるというものだ。
従来は全て自費扱いだったパネル検査だが、先進医療(一部の費用が保険扱いとなる)を経て晴れて保険適用となった。治療法を探す患者には福音のはずだが、現場ではうまく回っていないのだという。最大の理由は、この検査と既存のがん治療のルールに乖離があることだ。