会社と結婚するな
職能と結婚せよ
──強みを生かせる領域をどうやって探せばいいでしょうか。
私は人間の属性を三つの同心円で定義しています。一番中心の小さな円が価値観(バリュー)です。その周りにある中くらいの輪は能力(コンピテンシー)。一番外側の大きな輪が職能(スキル)です。
コンピテンシーというのは業界や局面に関係なくどこにでも持っていける能力のこと。スキルはこの能力を駆使して磨く専門能力のことで、業界や会社を超えて持ち出せるものもあれば持ち出せないものもあります。サッカー選手で例えると、コンピテンシーは体力、フィジカルの強さのようなもので、スキルはドリブルなどのテクニックだと考えると分かりやすいでしょう。
私が言う「強み」というのはコンピテンシーの部分を指していて、ここが一番重要だと考えています。コンピテンシーは大きく三つのタイプに分類できます。T(Thinking、考える力)、C(Communication、伝える力)、そしてL(Leadership、人を巻き込み、ゴールに引っ張っていく力)です。
Tの人はコンサルタントや研究職、各種の士業、マーケティングなど、Cの人は営業や広報、ジャーナリスト、プロデューサーなど、Lの人は経営者やプロジェクトマネジャー、管理職などの職能に向いています。自分の強みがT、C、Lのどれなのかを認識し、その領域にある職能から自分に向いている仕事を探せばいいのです。
私の場合、子どものときからずっとコミュニケーションが苦手だった。誰も信じてくれませんけど、私は内気でシャイなんです(笑)。一方で、私は昔から新しいものが好きで、誰も考えつかないことを考えて思い付くことに喜びを感じます。つまり私の強みはTとLにある。それを生かしてマーケッターという職能を身に付け、さらに経営者の道へ進んでいきました。
──森岡さんは「どの会社に入るか」ではなく、「どの職能に進むか」を考えたのですね。
その通りです。私は、「就活」とは文字通り就「職」活動であって、就「社」活動ではないと考えています。それは、自分のキャリアを考える上で、会社よりも職能の方がはるかに大事だからです。会社はいつ消滅するか分からないし、買収されて全く違う社風に変わるなんてことも日常茶飯事。でも職能は相対的に最も維持可能な個人財産です。
ですから、就活生の皆さんにはこう言いたい。「会社と結婚するな、職能と結婚せよ」と。
会社を結婚相手だと考えてしまうと失敗できない。正解(ふさわしい相手)は一つだけだと考えてしまいがちです。でも職能を結婚相手だと考えると、正解はたくさんある。自分の強みであるT、C、Lを生かせる場所は山ほどあるからです。
就活というのは、会社や職能に合わせて自分をはめ込むのではなく、自分の強みに合わせて会社や職能を選ぶことなんです。相対的に自分に合ったものを自分が選ぶ。自分はそんなに大きくは変われないですから。