幸福だと感じる瞬間の中に
自分の人生の目的がある

──今や一つの会社と「結婚」する時代ではないとすれば、明確なキャリア戦略が必要になりますね。

 キャリア戦略は「戦略」ですから、目的を明確にしないと立てられません。でも「あなたの人生の目的は何ですか」と大上段に構えて聞かれても、すぐに明確な答えなんて出てこない。まだ社会人になってもいない学生ならなおさらです。

 そこでお勧めしたいのが「どういう状態であれば自分はハッピーだろうかと考えること」。私自身、就活のときは目的が明確じゃなかった。それで、どういう状態だったら自分がハッピーか考えてみたんです。私にとってそれは「自分がある一つの集団の中で起点になって、自分の得意な考える力を生かしながら人を統率して何か大きな事業を成し遂げている状態」でした。

 この状態って経営者だなと気付いて、経営者への近道を考えたとき、ファイナンス、マーケティング、営業という三つの選択肢がありました。その中で、私は自分の強みであるTとLが生かせるマーケッターの道を選んだんです。

 このように、目的はざっくりしたもので構いませんし、暫定的であっても構いません。目的が変わる場合もあるわけですから。重要なのは、自分なりに考えて納得した目的であること。そうであれば、これから歩いて行く一歩一歩に自信を持つことができます。

 社会人になると大変なことばかりですが、自分が苦労しているのは上司に言われたからではなく、自分の人生の目的に対しての一歩のためだと納得できれば、人は強くなれます。

森岡毅氏が全就活生に送る、「働くこととは、キャリアとは何か?」

──ご自身のキャリアを今振り返ってみて、当初に想定した通りでしたか。

 方向性としては当初歩こうと思った道だったと思います。しかし今見えている景色は、当時は見えていなかった。それは面白いですね。経営者という山への道を登るための手段として選んだマーケティングが、これほど人々の生活や会社の業績を決定的に変える力を持つのかということは、歩き出して自分で体感して初めて分かったことです。

 経営者というのも、どれだけ大変なのかということは実際になってみて分かった。やりがいとか孤独さとかいったこともやってみて分かりました。最初にお話しした、「やってみないと分からない」というのはこういうことなんです。