つんく♂氏が説く「無駄の積み重ね」の大切さ。自分が新人だったら…アイデアを凝らす“業務外”の仕事とは?総合エンターテインメントプロデューサー つんく♂氏

企業でも個人でも多様性がますます尊重される時代に入っていく中で、どのように生き、働いていけばよいか、経験豊かな5人のプロフェッショナルに聞いた。3人目は、プロデューサーとして、音楽をはじめ教育やゲーム制作でも活躍するつんく♂さん。今の時代に就活生が持つべき視点とは何か。前編に続き、自身のキャリアを基に若者へのアドバイスを語ってくれた。(取材・文/奥田由意、撮影/加藤昌人、スタイリスト/山田ひとみ、ヘアメイク/坂野井秀明(Alpha Knot)、衣装協力/Natural Lounge)

日本の大学生というだけで
世界では恵まれている

 日本は人口減少が続く中、世界とどう戦うかを考える時代なんでしょう。それでもやはり偏差値や内定先を「勝った、負けた」と気にする。それより、すでに優秀なはずの能力を生かして、世界で戦える、働けるようにするには何をすべきか考えた方が、将来良いポジションを得られるんじゃないか。

 アイデンティティーを形成するという意味で、思春期ごろまで日本で教育を受け、のちに生活できるレベルの外国語を習得すれば、世界中どこでも働けるし、求められる人材になると思います。求められれば「ああ、人生って楽しい!」と思えるし、今度は自分が誰かを求める立場になって社会にも貢献できる。

――「多様性」が叫ばれる今の時代に、どんな能力や感性を身に付ければいいでしょうか。

 AIが何でも考えてくれる時代なので、より「人間っぽいこと」ができる人は強いと思います。昭和の青春ドラマのように「熱さ」「人懐っこさ」「無駄と思えるようなことへのこだわり」がある人。

 たとえば、「花見の場所取り」のようなことが実はめちゃくちゃ大事な人間づくりの基礎だと思う。同僚や後輩が嫌がりそうなことを率先して、「アイデア込み」でうまく乗りこなす。それはプロデュース力につながる。

 自分が新人なら業務以外の「お使い」「片付け」「打ち上げ」にアイデアを凝らすでしょうね。こういうことがプロデュースの始まりだと思うんです。先輩や上司に「あれ? いつの間にかかゆいところに手が届いてた」って思ってもらうことが重要で、学歴を超えた信用をつかむチャンスだと思います。

 ごく一部の天才以外、皆がどんぐりの背比べだとしたら、今言ったような「業績に直結しない無駄」に情熱を掛けられる人が、人間力を高く評価される。つまりは信用を得られる。凡人が抜きん出るにはこの「(一見)無駄」の積み重ねで信用を勝ち取ることが鍵になる。

 そのときに重要なのは、予算内で打ち上げを盛り上げる、遅刻しない、仲間を巻き込むなど、ごく当たり前な社会人としてのバランス力です。

「あいつに頼んだら盛り上がるけど、いつも予算オーバー」とか「あいつは才能はあるけど、時間にルーズ」みたいなバランスの悪い人は求められていない。そういう人は、次からは「お使い」も頼まれなくなる。つまりは「デカい仕事」が回ってこなくなる。