
中国は2024年の新車販売台数が3100万台に達し、14年連続で世界最大の自動車市場の地位を維持した。そのうち電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車を含む新エネルギー車の販売は約1300万台に上り、全体の40%を占めた。中国は、EV市場での圧倒的な存在感に加え、自動運転分野でも急速に進化を遂げている。特に注目されるのが、自動運転ソフトウエアを開発し自動車メーカーに販売するモメンタと、AI(人工知能)チップ開発を主力とするホライゾン・ロボティクスだ。両社の技術はすでにトヨタ自動車、独メルセデス・ベンツ、独フォルクスワーゲンといった大手自動車メーカーが、中国市場向けのモデルに採用し始めており、中国製の自動運転ソリューションが現地市場で“標準装備”となりつつある。こうした技術は高級車に限らず、大衆向けEVにも搭載されることで、広範な普及とグローバル展開が進む。かつて米シリコンバレーが主導していた自動運転の競争軸は今、中国勢によって塗り替えられようとしている。気付けば、中国発のスタンダードが世界を席巻しつつあるのだ。特集『自動車 “最強産業”の死闘』の#13では、世界の最先端を走る中国の自動運転の技術やビジネスの最新事情を明らかにする。(ジャーナリスト 高口康太)
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世界最大の13億人市場で社会実装を加速
EVに続き、自動運転でも世界覇権が視野に
2025年は中国の「自動運転元年」になる――。そう言われると、違和感を持つ読者もいるだろう。とっくの昔に自動運転元年は到来しているのではないか、と。確かに、中国の街中にはロボタクシーや宅配の無人配送車が走り回り、炭鉱や港湾では自動運転トラックが稼働している。ほとんど人間が操作することなく目的地まで移動できる先端運転支援システム(ADAS)が搭載された車も多い。
それでも「元年」といわれるのには理由がある。従来の自動運転は鉱山などの閉鎖された空間か、あるいはリモート監視員がいるか、低速の配送車かといった条件に限定されていた。限りなく自動運転に近いADASも「レベル2+(高度運転支援)」とされ、あくまで運転の主体は人間だ。ADASにお任せして安全配慮を怠って遊んでいたドライバーは実際には相当数に上るとみられるが、事故が起きれば責任はドライバーが取ることになる。
一方で、「レベル3(条件付き自動運転。緊急時は人が対応)」以上の自動運転は、事故が起きれば責任は自動車メーカーが負わねばならない。それ故に自動車メーカーも中国政府も慎重な姿勢を取り続けてきたが、近年ではADASの性能が販売訴求に直結するようになってきたため、各社が競って高度化を進めている。そして、ついに今年、レベル3自動運転を実装する市販車が数多く登場することとなった。
通信機器・端末大手のファーウェイと江淮汽車(JAC)が24年末に共同で立ち上げた高級EV(電気自動車)セダンブランド「尊界(マエストロ)」のS800が5月に発売された。昨年発売されたファーウェイと賽力斯(セレス・グループ)が共同で展開するEVブランド「問界(AITO)」のM9、M8もアップグレードでレベル3に対応する。ファーウェイ系以外でもBYD、嵐図汽車、広州汽車、小鵬汽車、蔚来汽車(NIO)など多くの自動車メーカーが年内にレベル3のEV車両発売を計画している。
中国では昨年末に北京市自動運転車条例が、今年1月に武漢市スマートコネクテッド自動車発展促進条例が公布されるなど、レベル3自動運転に関する法整備も進展している。
21年以後、中国ではEVの販売台数が急激に拡大した。レベル2+のADASを備えた車が大量に販売されたが、交通安全には大きな問題をもたらしていない。生死に関する問題だけに慎重だった規制当局もついに解禁に向けて動きだした格好だ。
中国の「自動運転元年」は世界の自動車業界に大きな影響をもたらす。自動運転の心臓部はAI(人工知能)であり、その性能向上には膨大な走行データが不可欠だ。13億人の市場で社会実装が加速すれば、より多くの車両からデータが収集できる。そのデータをAIの学習にフィードバックすることで自動運転のレベルはさらに上がる。自動運転の社会実装でリードすることのアドバンテージは極めて大きい。すでに電動化でリードしている中国メーカーが、自動運転技術という武器を手に入れれば、世界市場展開はさらに加速するだろう。日本の自動車メーカーは巨大な中国市場でのシェアを失うだけでなく、世界のあらゆる市場で劣勢に立たされる危険性をはらんでいる。
次ページでは、世界の最先端を走る中国の自動運転の技術やビジネスの最新事情を明らかにする。自動運転分野で、世界を席巻しつつある2社の強みとは。また、中国勢の死角も指摘する。