東京大学大学院 経済学研究科 教授
柳川範之 (やながわ・のりゆき)
1963年生まれ。独学で大検合格後、88年慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業、93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学大学院経済学研究科助教授などを経て、2011年より現職。 Photo by Masato Kato

人生100年時代の到来で、働き方はどう変わるのか。「40歳定年制」を提唱するなど、新しい時代の働き方について早くから提言してきた東京大学大学院の柳川範之教授に聞いた。(ダイヤモンド・セレクト編集部)

──人生100年といわれる時代です。今後、産業構造や社会構造にどのような変化が起こりますか。

 大きく三つの変化が起こります。まず、ここ何十年かは、とにかく変化のスピードが速い時代です。それに応じて企業の在り方や働き方も変わってきています。これはIT、テクノロジーの進展のスピードが速いためですが、その影響はIT産業にとどまらず、伝統的な製造業、サービス業にも及んでいるというのが現状です。

 2番目はグローバル化が本当の意味で進むだろうということです。インバウンドの観光客を見ても世界各国から来ているように、いろいろな国や地域とのつながりが密になってくるでしょう。

 3番目は、産業の垣根が崩れるということです。伝統的な「○○産業」というくくりはなくなります。テレビや映画産業と情報通信産業が融合しNetflixのようなサービスが出てきたり、ネット証券などのように金融と情報通信産業の垣根がなくなっている例もすでにあります。こうした動きが、あらゆる産業間で起こるでしょう。

──社会、産業の変化は人々の意識構造の変化も引き起こしますね。

 就職したら会社や仕事の内容が定年まで変わらないということはもはやあり得ません。変化のスピードが速いので、会社のやることも会社自体も変わるでしょう。

 働くとは、同じことをやり続けるのではなく、違うことをすることだ、と人々の意識が変わりつつあり、今後もその方向に大きく変わっていくでしょう。

 最近の学生の進路として、起業する人が増えています。それも、起業したらずっとそのままではなく、途中で大企業に入り直すとか、大企業に入ってもベンチャーを起こすなど、ルートが多様化し、いろいろなパターンを経験することができる時代になっている。ベンチャーで失敗してもそれはベンチャーを起こした経験として評価されるのです。決して一部の人だけの話ではなく、いろいろな会社のスタイルが出てきて、いろいろな人にチャンスが生まれています。

──そんな中で、キャリア形成の考え方も変わりますか。

 これまでは、企業に入ってしまえば、それが一種のゴールで、キャリア形成は会社に任せて、会社が要求する仕事をこなし、会社の決めたキャリアパスを歩くのが一般的でした。上司や会社の言う通りにしていれば安泰で、それが一番の生き残り戦略でしたが、これからはキャリアを自分で主体的に考えていかなくてはなりません。

 その意味で、就職活動というのは、自分がやりたいことや、将来どのように働きたいかということを、無限の選択肢の中から選び取り、自分でキャリアを考える第一歩です。ただ、就職するとキャリアについて考える機会が減ってしまう。会社に入ってからも、今後どのように働いていきたいかを考え続けることが大事です。

 どういうスキルを身に付ければ活躍できるかを自分で考え、会社任せにしないで、キャリアを考え続ける必要がありますし、会社側もそうした従業員の自主的な取り組みを評価する方向に急速に変わってきています。

──これまではどの会社に行きたいかという、就「社」的な考え方が主流でした。改めて就「職」に変えていく必要がありますね。

 今の会社がいつまでも今と同じ勢いがあるとは限らない。だからこそ会社がどうかより、どんな仕事、職を選びたいかという観点が重要です。ただ、あまり深く悩み過ぎない方がいいでしょう。「腰掛け」のような安易な気持ちはいけませんが、いったん就職したら、絶対に抜けられないということはなく、状況が変わって、他がいいと思ったら移ればいい。