働いてみて初めて分かる
学びの面白さと大切さ
──大学を卒業して働き始めた後も、10年くらいの長期スパンでいつでも大学に戻ってきて、必要なことを学べるような学び直しの履修システムを社会としてつくるべきだと説かれていますね。
仕事をしてみて初めて、必要だと思う知識・能力が見えてくることがありますよね。そういう知識・能力を身に付けたいと思うタイミングで学ぶと、単位のために詰め込み学習をするよりはるかに身に付きます。またそれが何倍も仕事に生きるでしょう。そんな学び方をサポートし、働き手の長期的なキャリアのために何が必要かを考えて、可能な範囲でその手立てを尽くしてくれる会社が、今後は選ばれるようになるでしょう。
──一部の優秀な学生に内定が集中したり、高額な初任給が支払われたりしています。特別な能力があるわけではない一般の学生はどうすればいいのでしょうか。
専門性の高い能力を持った人が高給を取っているのは事実ですが、野球で、スター選手が高い年俸をもらうのと同じで、そこを気にしてもあまり意味はありません。
一般の人が、それぞれの持ち場で活躍できるチャンスはいくらでもある。人手不足が続くので、仕事に必要な能力さえ身に付けられれば活躍できるはずです。
今は、社会が必要とする人材と、大学を含め、教育する側が送り出す人材にミスマッチが起きています。残念ながら社会に必要な能力を身に付けた人材を送り出せていないという意味で、現実に合っていない。だからこそ、働きながら学んで必要な能力を身に付けるべきなのです。
──人材のミスマッチがある中で、大学は即戦力の人材育成に動いていくのでしょうか。
基本的にはそういう方向に進んでいます。従来、大学では教養だけを授け、優秀な人材をまっさらな状態で企業に送りこみ、実践的な部分は、企業が自社の色に染めて育てるという流れでした。しかし、企業に人材育成の体力がなくなり、まっさらな状態ではなく即戦力の人材がほしいと急に言い出したので、大学がその変化に追い付けていません。即戦力をつける教育といっても限界があります。
実践的な能力は実践して初めて身に付く。実践的なビジネス戦略を勉強したとしても、働いたことのない学生にはリアリティーのない話で、「実践風」なことをやっても、それは現場で経験を積むことにはかなわないのです。
不完全でもいいからまず社会に出て、働いて、必要なことを大学に戻って勉強し、また働くということを繰り返し、ステップアップしていくことが必要です。働いて、何が足りないかを知って学んで働くことこそが、自分のキャリアを築くことにつながります。
──インターンシップの早期化についてはどうお考えですか。
いろいろな実務経験は大事だと思いますが、学校教育が侵食されるのは残念なこと。インターンがあるので、講義に出られないということもあります。それでは大学教育が形骸化してしまう。そういう問題意識もあって、就職の早期化とセットで、学び直し履修システムを提言しているのです。
インターンをしながら、おざなりに単位を取るくらいなら、さっさと就職して、必要なときに学びにくればいい。就職活動や採用が長期化している中で、インターンと学校教育の併存をどうするかを考える時期にきています。どこかで半年なり、一定期間大学教育を中断して、インターンに集中する、あるいは正規課目にするなどいくつか方法はあると思います。