Windows10への標準搭載で
外国人にもニーズが広がる

 実は高田さんは、もともとモリサワのグループ会社で、高齢者や目の不自由な人々が読みやすい新しい書体の開発プロジェクトを任されていた。新書体の有効性について調査を依頼したバリアフリーやユニバーサルデザインの研究をする慶應義塾大学の中野泰志教授に、視覚障がいのある子どもの教室を案内してもらった。そこで学習現場の「文字」の課題を知り、対象者のメインを「子ども」で考えたいと会社に提案したそうだ。

「小さな会社でしたし、次の開発も決まっていない時期で、反対はされませんでした」と高田さんは言うが、事は簡単に進んだわけではない。「その小さな会社は経営的な問題で、モリサワに吸収されてしまったのです……」と、開発途中の「UDデジタル教科書体」とともに高田さんはモリサワへ移籍した。

教育現場で話題!子どもの学習意欲を上げる「UDデジタル教科書体」とは?株式会社モリサワ東京本社営業企画部公共ビジネス課チーフとして活躍中の書体デザイナー・高田裕美さん。会社をまたいで10年以上行われた「UDデジタル教科書体」の開発プロセスから販促活動まで全てに携わった

 現代の日本語には、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットなど、いろいろな要素があり、1つの書体には約1万弱の文字数が必要だ。そのため、数十人規模の制作体制のもとで、コストも時間もかかる。ビジネスとしてのスケール感や、対象クライアントもはっきりしない高田さんの手掛ける「書体」は未知だった。しかし、普段のプロセスとは違ったデザイナーの思いから始まった開発に、「書体を通じて社会に貢献する」をビジョンにするモリサワでも続ける価値がある、とプロジェクトの継続が決まった。

 よい流れに乗ったプロジェクトは、よい出会いもつながっていく。慶應義塾大の中野教授から、「UDデジタル教科書体」の話を聞いたマイクロソフトの担当者が、Windows10への標準搭載の検討を始めたのだ。ちょうどマイクロソフトでも、日本語の書体を充実したいと動いていたところに、うまくはまったというわけだ。

 Windows10に標準搭載されたことで、この書体が知られる機会が増えた。「日本語を学び始めた外国人でも理解しやすいなど、意外なところでの好評価に驚いた」と高田さん。