転換期にある中国経済
中国経済がいま大きな転換期にあることは、誰の目にも明らかだ。
リーマンショックや欧州経済危機で、世界経済全体の景気が低迷しているなかで、輸出に依存してきた中国経済は大きな影響を受けている。輸出偏重から国内需要へのシフトを図ってきたが、その転換は必ずしもうまくいっていないようだ。
中国の一人当たりGDPはすでに5000ドルを超えるような水準になっている。低廉な労働コストを利用して輸出競争力を確保するというには、もはや中国の賃金は高すぎる。すでにタイなどと比べても賃金コストは高くなってしまった。日本企業のなかにも、中国での人件費の高騰を懸念しているところが多い。中国経済が輸出だけで伸びていく時代は終わったのだ。
人口面でも中国は大きな転換期にある。一人っ子政策を30年以上も続けた影響から、今後急速に少子高齢化が進むことが予想されている。中国の生産労働人口が減少し始めるのは時間の問題である。潤沢な労働を利用した産業発展が難しくなってきている。中国が持続的な成長を続けていくためには、産業構造や経済構造の大きな転換が求められる。
「中所得国の罠」とは何か
2011年9月、私は世界銀行の招待で中国での会議に出席した。世界銀行と中国政府が共同で作成した2030年の中国経済ビジョンのレポートに関する議論に参加するためである。そのレポートのキーワードは「中所得国の罠」というものであった。
この「罠(trap)」というのは、「貧困の罠(poverty trap)」というかたちで使われることが多い。貧しい国が貧困の悪循環のなかでなかなか成長できない状況を指している。経済発展論の分野における中心的な考え方である。貧困の罠からどう抜け出すか、という点が経済発展論の中心的な課題でもある。