人民元論争の
背景にあるもの
人民元問題は、米国と中国の経済摩擦の中心的なテーマである。米国は中国に対して、人民元の自由化を求めて圧力をかけてきた。中国は、長期的には人民元を自由化していくことの重要性を認めつつ、当面は時間をかけた自分のペースでの自由化を進める意思を示してきた。
人民元を巡る論争、中国の思惑などを掘り下げていくと、大きな転換点にある中国経済の直面する課題がよく見えてくる。前回は、産業構造の転換という視点から中国経済のこれからについて考察したが、今回は人民元を巡る動きを通して中国経済の変化について論じてみたい。
米国の中国に対する批判は単純ではあるが明快だ。ようするに「中国は人民元を不当に安くなるようにコントロールしている」「だから中国の輸出産業は低コストで大量に輸出することができる」「そうした商品が大量に米国に入ってくるので、米国の競合する産業が苦しんでいる」──つまり中国の人民元政策が、米国の雇用を奪っているというわけだ。
この議論がどこまで正しいのかは疑問である。米国は30年ほど前にも、日本に対して同じような議論を仕掛けてきた。
このときは通貨である円というよりは、日本経済の構造問題への批判であった。日本経済が輸出促進、そして輸入制限になるような構造問題を抱えているので、結果的に米国が日本に対して膨大な貿易赤字を抱えることになる──これが当時の米国の論調であった。
慢性的に貿易赤字を抱える米国は、その時々、最大の貿易赤字国に対する批判を展開する。かつては日本で、今は中国である。したがって米国の人民元批判については、少し割り引いて聞く必要はある。
ただ、中国の人民元政策を見ていると、米国でなくても、どこかおかしいと思わざるをえない面がある。その一つが為替介入の規模だ。