「稼ぐこと」の本質

 結局、4年間の花屋での経験は何だったのか?

六本木の路上で花を売るのも、企業を回って保険を売るのも、本質はまったく同じ。「モノを売ることにかけては生まれつき才能があったんだと思う」と語る北野さん。

 それは、「しなやかに、そして、したたかに生きる」術を身に付けることだったと、今は総括している。その術を一言でいえば、人からの信頼を獲得すること。懸命に生きる自分の姿を飾らず相手にぶつければ、信頼は自然とついてくる。そのことを僕は六本木の花屋で学んだ。

 飾らない真実は、人の胸を打つ。そこに感動があり、信頼が生まれる。

 深夜、大雨の中、たった一人の客が花束を買いに来るかもしれない。その可能性は否定できない。だから、その一人のために全力でやり抜く。朴訥(ぼくとつ)だが、こんな姿勢が大勢の中の一人に感動を与える。

 六本木は小さな街だから、その一人の小さな感動が、いずれは街全体に広がっていく。素晴らしい経験だった。だから、厳しくしつけてくれた花屋の主人、いつも励ましてくれた六本木の街の人々、必ず立ち寄ってくれた馴染みのお客様、皆さんのご厚意に心から感謝している。常にそんな思いで頑張っているから、一度勝ち取った信頼は決して裏切ることのないよう、今も懸命の努力を続けている。

 だから、社会に出ると自然と稼げるようになった。仕事ができると評判のセールスマンは、保険だろうが、車だろうが、時には家だろうが、何だって、その専門知識のあるなしに関わらず苦労もなく売ってくる。その極意は、信頼を売ることにある。

 要するに「稼ぐ」とは、お金を「稼ぐ」のではなくて人からの信頼を「稼ぐ」ことなのだ。