加えて、すべてのスタッフが、「前回以降、具合はいかがですか」「何か気になることはありますか」というように、コミュニケーションを必ず質問から始めてくれるのだ。患者である私は、思わず引き込まれた。トップダウンの「ああしてください」「こうしてください」という指示・命令ではなく、ボトムアップの巻き込み型のコーチング質問を繰り出しているのだ。
それも、私が答えた内容をしっかりメモしてくれているように思える。あるとき、スタッフの一人に聞いてみると、やはり、院長が講師となって、頻繁に患者に対するコミュニケーションのトレーニングを受けているという。感服した。
ところが、何回か通院しているうちに、気付くことがあった。最初の人に答えた内容が、次に処置してくれる人に、伝わっていないのだ。
マニュアルを徹底するあまり
起こった弊害とは?
歯科衛生士に「何か気になることはありますか」と聞かれて答える。歯科衛生士が処置することもあれば、処置は医師に委ねられることもある。医師から「何か気になることはありますか」と聞かれて、同じ話を医師にしなければならない。医師から院長へ治療が引き継がれることもあった。すると、院長からもやはり「何か気になることはありますか」と聞かれて、同じ話をしなければならないのだ。
時には、医師に説明し終わった直後に、治療を担う院長が入ってきて、医師は私から聞いた内容を院長へ伝達したそうな口ぶりを見せるが、院長がさっさと処置をし始めていることを邪魔してはいけないという様子で、口をつぐむ場面も見られた。
そうしたことが繰り返されたので、歯科衛生士から「何か気になることはありますか」と聞かれた際、「今日お伝えしたいことは長くなりますし、二度手間になっては申し訳ないので、院長に直接話をさせてください」と申し上げた。
すると、歯科衛生士は顔色を変えて、「あらかじめお聞きして、私から院長へ事前にお伝えしなければなりませんのでお願いします……」と深刻そうにおっしゃる。今回こそは、二度手間にならないだろうと思い、歯科衛生士に説明した。
その後、院長が診察に来られた。先ほどの説明が伝わっているだろうと期待していたが、全く伝わっていなかったのだ。私からあらためて、歯科衛生士にした話と同じことを、医師にしなければならなかった。