北朝鮮は6月16日、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破し、さらに四大軍事行動をとると予告していたが、23日、金正恩朝鮮労働党委員長が出席する中央軍事委員会予備会議で、軍事行動の「保留」を決定した。この決定の背景に何があったのか、今後どう出てくるか考えてみたい。
米朝関係が膠着したハノイ会談
米朝会談が膠着状態に陥ったのは、2019年2月に行われたベトナムハノイの会談が決裂したことが原因だ。米国はハノイでの首脳会談で、寧辺(ヨンビョン)の核施設を破棄する引き換えに制裁を全面解除せよという北朝鮮の要求を一蹴した。これについて金正恩氏は「寧辺が北朝鮮にとってどれだけ大きな意味があるか」を繰り返し説明したという。
その後の米朝関係は、18年6月のシンガポール会談を開催した時とは大きな違いがあった。
ジョン・ボルトン前大統領安全保障会議(NSC)補佐官は、シンガポール会談当時、米ドナルド・トランプ大統領が「会談はアピールのためだ。中身のない共同声明に署名し、記者会見を行って勝利を宣言したらすぐに離れる」と発言したと伝えている。この米朝会談が、北朝鮮の期待を膨らませるきっかけになった。それを現実に引き戻したのがハノイの会談だが、一旦膨らんだ期待を元に戻すことは至難の業であった。
現在の北朝鮮は、ハノイで提案した「寧辺廃棄案」からも事実上後退し、米国が制裁解除措置を先行することを要求しているようだ。それは、昨年10月のストックホルム米朝実務者会談で、制裁解除の他に、合同演習と戦略兵器の展開をやめることを求めたことから読み取れる。
北朝鮮はこうした協議以外でも、1994年のジュネーブ合意以来、米国は政権が変わる度に、一方的に米朝合意を無効化すると迫ってきたと批判している。そうしたことから、再選が確実ではない状況にあるトランプ政権と、何らかの合意をすることには否定的だろう。
昨年12月、北朝鮮指導部は「米国が米朝首脳会談での約束に反して北朝鮮への敵視政策を継続している」と非難し、「政治外交的・軍事的攻勢ばかりでなく、経済面においても、対米交渉と内閣の機能強化により、正面突破で困難を乗り切っていくこと」を指示した。こうした方針の決定は、米国の大統領選挙後を念頭に置いたものと考えられる。
他方、トランプ大統領にとって、ハノイ会談で拒否した北朝鮮の要求を認めるわけにはいかない。そのためには、北朝鮮に最低でも寧辺核施設の、さらには新たに建設・稼働している降仙(カンソン)の核施設などの、検証を伴った廃棄を受け入れさせなければならない。トランプ大統領は、寧辺核施設廃棄を約束した北朝鮮に騙されてきた過去の政権とは違う、と公言してきた。
だが、この条件を北朝鮮が満たすことは容易ではないだろう。ハノイでの会談以来、米朝間の立場の違いは一層鮮明になっているのが現状である。