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P&Gやユニリーバは
なぜグローバルリーダーなのか
編集部(以下青文字):エコシステム間競争において、比較優位を獲得するためのカギは何ですか。
森本(以下略):先ほど申し上げた通り、さまざまなコンプリメンター企業を参加させて、規模の経済をグローバルに働かせることであり、もう一つは知識やアイデアをグローバルに収集する組織能力です。これも繰り返しになりますが、メタナショナルの世界では、さまざまな国や地域での成功を比較・分析し、それをグローバルに展開できることが不可欠だからです。
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の例が参考になります。P&Gは、そもそも石鹸をつくっていた会社で、綿花から油を絞っていました。その残りかすを使うと吸水性の高い紙ができるという知識を活かして、紙おむつを開発します。そして1977年、パンパースを日本に持ち込みました。
当時、日本で紙おむつをつくっていたのは白十字という会社で、主に病院用でしたが、P&Gは乳幼児用を投入し、母親たちをおむつの洗濯から解放することで、発売からわずか2年で日本の紙おむつ市場を100億円超規模に拡大し、その約9割のシェアを獲得します。
ここに対抗してきたのが、ユニ・チャームと花王です。これら日本勢は、女性の生理用品に使っていた高分子吸収体を採用します。「紙だからそのつど使い捨てればよい」という考え方でつくられたパンパースに対して、ユニ・チャームのムーニー(1981年)とマミーポコ(1983年)、花王のメリーズ(1984年)は高分子吸収体などの機能性新素材を用いたことで長時間の装着を可能とし、消費者の支持を得ます。
この最初の戦いでは、日本勢に軍配が上がったのですが、P&Gはこの時の教訓を糧にして、「高分子吸収体を使った紙おむつを全世界で展開すればよい」と発想を転換させました。そして、自社のグローバルな販売・マーケティング網に乗せて、日本以外の地域で大成功を収め、現在グローバルで40%近いシェアを獲得しています。
本当の話かジョークなのかわかりませんが、その昔、P&Gの何代か前のCEOがハーバード・ビジネス・スクールで講演した時、「私たちは極東に素晴らしいR&D拠点を持っている。その名前は花王とユニ・チャームである」と述べたとか。
つまり、彼らのグローバル戦略はそういうことなのです。
P&Gが日本で開発し、グローバル展開させた商品に、SK–Ⅱというスキンケア化粧品があります。これは、「お肌のコンサルティング」という資生堂から学んだ販売方式を参考にしています。たとえば、日本で「運命を、変えよう。」というアンチエイジングキャンペーンの一環として実体験イベントを行っていますが、欧米でもビデオカメラで診断するなど、スキンケアのコンサルティングセールスを売りにしています。
これらは、日本で得た知識やアイデアをグローバルに横展開した例ですが、アラン・ラフリー――1990年代後半、彼はアジア圏のトップを務めていました――がCEOに就任すると、R&Dの50%を社外との協働で行うことを目標にした「コネクト・アンド・デベロップ」という方針が掲げられます。いわゆるオープンイノベーションを宣言したわけです。そして、これは「ニュー・グロース・ファクトリー」という、まさしく世界中の知識やアイデアを探索・収集し、P&Gのグローバルプラットフォームに乗せて展開するモデルへと進化させます。
ライバルのユニリーバも、オープンイノベーションのイニシアティブを立ち上げ、R&Dのパイプラインを世界に広げています。花王やユニ・チャームは、国内では高収益企業として評価されていますが、ことグローバル展開では、彼らの後塵を拝しています。北米ではP&Gが立ちはだかり、ヨーロッパにはユニリーバが君臨しています。そこで、アジアで巻き返そうというわけですが、ここでも欧米勢が立ちはだかり、苦戦を強いられています。花王やユニ・チャームに限りませんが、日本の消費財メーカーにとって、グローバルに知識やアイデアを収集できるか、グローバルな規模を獲得できる製品を開発できるか、そしてグローバルに流通できるかが課題です。