三菱商事は創業以来初の連結赤字に転落し、15年間連続で純利益トップだったナンバーワン商社の座を明け渡した。2016年3月期に総合商社大手7社で最下位に甘んじた同社では、食品原料事業やコンビニエンスストアのローソンなどリテイル事業を統括してきた「生活産業グループCEO」の垣内威彦氏が同年4月、社長に就任した。どん底に落ちたからこそ、大胆な改革を行い、商社の新しいビジネスモデルをつくり出すのではないかと、新トップ誕生に注目が集まっている。

 三菱商事では、従来の収益モデルの大転換を進めている。これまでの「トレーディング」「事業投資」モデルからの脱皮を図り、新たに「事業経営へのシフト」を打ち出した垣内氏に、変革への決意、成長戦略、経営人材の育成について直撃した。

理解されにくかった
中期経営戦略の新方針

編集部(以下青文字):2016年3月期に1494億円という巨額な赤字を出し、前期比5500億円の減益という厳しい事態に陥りました。垣内さんの社長就任は2016年4月1日で、決算発表はまだされていませんでしたが、どのような思い、覚悟で社長を引き受けられたのですか。

「新」商社論【前編】
三菱商事 代表取締役社長               垣内威彦TAKEHIKO KAKIUCHI
1955年兵庫県生まれ。1979年京都大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。飼料畜産部に配属され、1988年オーストラリア三菱商事(シドニー)、兼Riverina Stockfeed社 取締役、兼MC Meats(Rockdale)社 取締役、兼Killara(Quirindi)社 取締役、2001年ホワイトミートユニットマネージャー、2006年食品原料、加工食品、小売業、外食などを担当する生活産業グループCEOオフィス室長、2008年農水産本部長、2010年執行役員、2011年生活産業グループCEOオフィス室長兼農水産本部長、2013年常務執行役員・生活産業グループCEO。2016年4月1日より現職。

垣内(以下略):社長をやれと言われた時は、驚きが強かったです。外的環境はそうやさしいものではありませんでした。どういう形でターンアラウンド(改善・立て直し)すべきか、大きな責任を感じましたが、天命だと思って受け入れることにしました。

 まずは経営の実態を把握すべく、過去を総括し、現状の課題を抽出したうえで、今後二度と赤字に陥らない収益構造にしようと考え、2カ月ほどで中期経営戦略の原型をつくりました。その検証も終え、いまはそれをどうやり抜くかという段階で、それなりの自信も出てきました。

 難局に直面したがゆえに、ワクワクするということはなかったのですか。

 ワクワクというと、社員や皆さんに失礼になり軽々に言いにくいのですが、難題に直面し、厳しい環境に身を置くことに、ある種の喜びはあります。全力を投入するのは当たり前ですが、思考も会社のことに集中し、腹もくくっています。

 それなりの自信が出てきたというのは、何かきっかけがあったのですか。

 就任して1カ月余り経った5月10日、3カ年の「中期経営戦略2018」を発表しました。それ以降、国内外で11回の社内説明会を行い、執行役員、部長、チームリーダー、一般社員など約1200名の社員に直接語りかけました。

 直接語りかける狙いは何ですか。

 いま進めている中期経営戦略では新しい商社像を打ち出しています。商社の機能、ビジネスの姿は「トレーディング」から「事業投資」主体のスタイルに変わり、さらに今後、「事業経営」モデルの時代を本格的に迎えると考えています。

 そのため次世代を牽引できるよう事業基盤を強化し、経営能力が高い人材が育つ会社にしなければならないと訴えました。しかし当初、よくわからないという声があったのも事実です。部門のラインを経由して社員に伝える方法もありますが、自分自身の言葉で語ることで思いが伝わるのではと、社員に直接語りかけるようにしました。

「新」商社論【前編】