長寿命化がもたらす働き方や生き方の変化を『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』の2冊の著作で鮮やかに描き出し、私たちが今すぐ取り組むべきことを多彩な観点から示唆したリンダ・グラットン氏。
しかし、個人が会社に依存せずにキャリアデザインを描くことは、組織やネットワークが不要になることを意味するわけではない。新時代の組織はどうあるべきか、マネジメントの役割はどう変わるか、そして私たち一人一人は何を選択すべきなのだろうか。彼女へのインタビュー【後編】としてお届けする。
*前編はこちら
組織に依存せず
働き方を自由にデザイン
アデコ働き方改革プロジェクトスタッフ(以下、アデコ):会社に依存してキャリアをデザインする時代が終わり、個人が自分のキャリアに責任を持つようになると、もはや組織は不要になるのでしょうか。
リンダ・グラットン(以下、グラットン):寿命が延びていくにつれ、会社に所属せずに過ごす時間はどんどん増えていきます。退職後の孤独感も大きな問題になるでしょう。従来のように、人間関係の多くを会社に頼ったままでは生きにくくなると思います。同時に「会社以外の場所で、いかに自分の価値観に合ったネットワークをデザインしていくか」に目が向くようになるのは、自然な流れだと思います。
ただし、日本人は英語が苦手な人が多いことがネットワークづくりの弱点になりそうですね。世界にはさまざまな働き方、暮らし方がありますが、日本語圏に限ってしまうとアクセスできるネットワークが限られてしまいます。私も日本語が話せるわけではないので偉そうに言えませんが(笑)。
アデコ:企業に属することで得られていた個人の安心感や安定は、そうしたネットワークで代替できるものでしょうか。
グラットン:企業に属するか否かにかかわらず、人間は、結局集まって何かをするのが好きなのだと思います。かつては、テクノロジーが進化して在宅勤務が可能になれば、誰もが家で仕事をするようになると考えられていましたが、いざ条件が整ってみても、在宅勤務よりも集まって仲間と一緒に働くことを好む人は少なくありません。
私は、組織のイノベーション創出を支援する「ホットスポッツムーブメント」という会社を経営していますが、社員にいくら「在宅勤務OK」と伝えても、みんなオフィスに出てきたがるのです。
ですから、企業の存在が相対的に小さくなる社会においては、「みんなが集まって仕事に取り組める場」を自らデザインできるかどうかが人生における重要なポイントになるでしょうし、これからの大きな課題になるでしょう。
アデコ:グラットンさんもやはり、集まって仕事をするのが好きですか。
グラットン:私自身は自宅で仕事をするのが好きですね(笑)。特に執筆の仕事は自宅の方がずっと集中できます。といっても、自宅が唯一の仕事場だと考えているわけではありません。ここロンドン・ビジネススクールにも、ホットスポッツムーブメントにもそれぞれオフィスがあり、タスクに応じて使い分けています。
ホットスポッツムーブメントのオフィスは、テムズ川沿いに立つサマーセットハウスという建物の中にあります。18世紀に建てられた美しい建物です。個人事業主が100人ほど入居していて、それぞれ独立したオフィスを構えていますが、共用スペースでは大勢の入居者が毎日顔を合わせてお茶を飲み、あれこれと情報交換をします。私はこの場所をとても気に入っていますが、1人で何かをじっくり考えるのに向いているとは思いません。
多くの人が「マルチプル・アイデンティティ」を持つようになれば、1人で多様な働き方を使い分けて、それぞれの生産性を上げていかなければいけません。タスクに適した働き方や働く場をダイナミックにデザインすることが大切なのです。