レビュー
現役の住職が「いい人をやめよ」と伝えてくれるのは、なんとも痛快ではないだろうか。「いい人をやめる」という発想自体は新しいものではないが、「いい人たれ」と倫理を説く宗教家からそれが発信されているのが本書『他人のことが気にならなくなる「いい人」のやめ方』の面白いところだ。
著者の名取芳彦氏は密蔵院の住職であり、真言宗豊山派布教研究所研究員をしながら、仏教に関わるさまざまな活動に携わっている。そんな著者は仏教的な視点から、「みんなに好かれなくてもいい」「誘いを断ってもいい」「縁を切ってもいい」と教えてくれる。いい人をやめるといっても、自分勝手にわがまま放題ふるまえといった極端なことではない。嫌なことにはノーと言ったり、依存してくる人に対して一線を引いたりと、その内容はまっとうなことであるからこそ受け入れやすい。実行すれば確実に自分の生活が前向きになるだろうと思えるものばかりだ。
本書からにじみ出る著者の人柄は、「いい人」をやめていてもなお、いい人そうなのである。著者がやめた「いい人」とは、誰にとっても当たり障りのない「いい人」ということなのだろう。そう考えてみると、私たちは普段、好かれたいと思ってもいない相手、縁を切りたいと思っている相手にですら、「いい顔」をするべきだと考えて、疲弊していないだろうか。本書を読みながら、自分が誰にとっていい人でありたいか、考えてみてはいかがだろうか。(池田友美)