名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第30回。かつて肛門疾患に苦しむ女性たちが肛門科を受診するには、かなり心理的なハードルが高く、結果的に重症化してしまうことも多かった。そんな中、作家・遠藤周作氏の強い勧めもあり「日本初の女性肛門科専門医」となり、いまなお、そのパイオニアとして目の前の患者としっかり向き合う「心あたたかな医療」を追究し続ける山口トキコ医師(マリーゴールドクリニック院長)を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

「どうだ、トキちゃん
肛門科の女医にならんか」

山口トキコ山口トキコ(やまぐち・ときこ)/マリーゴールドクリニック院長。1988年東京女子医科大学卒業、92年東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学第二外科学教室で研修後、社会保険中央総合病院(現・東京山手メディカルセンター)、同大腸肛門病センター勤務を経て、2000年2月マリーゴールドクリニックを開業 写真:本人提供

「痔」に罹患している人は、日本人の3人に1人とも半数とも言われている。非常にありふれた病気であるにもかかわらず、恥ずかしさから受診をためらい、症状をより悪化させ、治療をむずかしくさせてしまっている人は少なくない。「かつては男性に多い病気だと思われていたが、最近は女性にも増えてきた」という話があるのも、以前は今よりもっと、恥ずかしくて病院に行けない女性が多かったからではないだろうか。

 なにせ今からほんの30数年前、山口トキコ医師(マリーゴールドクリニック院長)が東京女子医科大学に通う医学生だった時代の日本には、女性肛門科専門医が存在しなかった。肛門疾患に苦しむ女性たちが肛門科を受診するには、羞恥心という高い壁があったのだ。