香港で起こったことは
戦後台湾の「事件」と共通
混迷を極める香港問題をきちんと処理できるかどうか。これこそが中国共産党の習近平体制にとって最大の試金石になるだろう。裏を返せば、香港問題を思うように解決に導けたなら、中国は次に台湾に、そして沖縄に照準を合わせてくる。なぜか。それは理屈ではなく、中国が本質的に持つ覇権主義的な思想に基づくものだ。彼らのレゾンデートル(存在理由)ともいうべきものだ。
47年、台湾では二・二八事件が起きた。大陸から敗走してきた国民党の統治下で、治安は乱れ、汚職事件が度重なり、台湾人の不満が爆発した事件だ。庶民の声に対し、国民党は機銃掃射による虐殺で弾圧した。そして統治には強権が必要と考え、白色テロと呼ばれる知識人狩りや言論弾圧をより一層強化した。
現在の香港で起こっていることも、おそらく似ているのではないだろうか。戦後に台湾を統治した国民党の中華民国も、現在香港を統治している中華人民共和国も、歴史上脈々と続いてきた中華帝国体制の延長である。ここから見て取れるのは、中国はいまだに進歩と退歩を絶え間なく繰り返しているということだ。
完全に民主化された台湾においてさえ、国民党は現在でも中華帝国主義的な夢を諦められずにいる。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが、中国について「アジア式の発展停滞」と論じたが、これは決して不合理とはいえない。
中国は自由、民主主義、法治を経験していない。その国が、たとえ英国統治下の制限された条件とはいえ、西洋式の民主社会を経験した香港を統治することはできない。今香港で起こっていることは、二・二八事件で露見した、台湾と中華民国の「文明の衝突」の再演にすぎない。
明言したいのは、言論の自由が完全に保障されない国家に民主主義は根付かない、ということだ。香港の事例を見るまでもなく、人民が自分の国をどうしたいかということは、自分たちで決めればよい。そして自国の将来の選択肢を決める上で重要なのが、十分な情報だ。言論が制限され、国家や党に恣意的にコントロールされた社会においては、人民が政治的選択をする際の情報量が絶対的に不足している。
「国家を経営する」ということを考えた場合、中国のような独裁体制の方が効率が良いと捉える向きがあるそうだが、私はその意見には同意できない。あくまでも国の主人は人民であって、権力者は仕事をするために有権者から権力を借りているにすぎない。
台湾が、中国の影響力の大きい中華圏にありながら、決定的に中国と異なっているのは、この民主化の経験があるからだ。