具体的な仕組みとしては、リクルートグループの新規事業提案制度「Ring」が挙げられます。グループの従業員は誰でも自由に新規事業を立案・エントリーすることができ、書類審査や社長・役員の選考を通過した案件は、事業化を検討する権利を得られます。予算や体制を構築し、企業のリソースを使って事業開発に挑戦することができるのです。

 テーマは既存領域に限らず、ありとあらゆる領域が対象となります。『ゼクシィ』『R25』などの社員発案の新規事業はRingから生まれました。驚くべきなのは、この制度が1982年にスタートしていること。今でこそ多くの企業が「自律組織」を標榜していますが、そのはるか以前より従業員の自主的な取り組みを支援し続けてきたのがリクルートなのです。特定の事業領域にとらわれることなく、事業環境が変化しても生き残ってきた「自律組織」といえるでしょう。

「ティール組織」が必ずしもふさわしいわけではない

 自律組織の話をすると、「ティール組織が理想なのですか?」というご質問を頂くことも多くあります。ティール組織とは、社長や管理職がマイクロマネジメントをしなくても、目的に向けて進化していく組織の形のことです。指示系統もなく、メンバー各自がルールや仕組みを理解して、独自に工夫・意思決定していく特徴があります。

 確かに、自社の存在意義や向かうべき方向を各人が理解し、与えられた役割ではなく自分自身のアイデアと判断でセルフマネジメントを行えるのであれば、ティール組織が適している場合もあります。

 しかし組織づくりにおいては、「何を、いかにして成し遂げたいのか」だけでなく、「現状のリソースの状態はどうなっているのか」という観点からも、戦略を構築することが求められます。ですので、「ティール組織にすれば必ずうまくいく」とわけではありません。業界や企業によっては、トップダウン方式の方が組織として効率的に機能する場合もあります。

コロナ禍での経営者と人事の役割

 社員が自律的に動くことは必要ですが、リソースの問題からティール組織のような形にすれば必ず成果が生み出せるとは限りません。では、コロナ禍で変化を求められる今、どのような組織を目指すべきなのでしょうか?また、組織を作り上げていく人事担当者は具体的にどう行動すればよいのでしょうか?

 自分たちの事業そのものが、今後どうなっていくのかビジョンや具体的な戦略を示すのがリーダーの役割です。もちろん見通すことが難しいのが今の状況だと思いますが、そのなかでも一筋の道を示せるかどうかがリーダーとしての分かれ道だと思います。

 そして、経営陣が示す方針や戦略を、きちんと社員に伝え、動機付けし、動かすための仕組みをつくるのが人事の役割です。