ここで意識をしてほしいのが「人事戦略と経営戦略の整合性」です。人事と経営、それぞれで向いている方向がバラバラの状態では、どちらの遂行にも支障をきたします。
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コロナ禍で自律的な組織を作り上げる人事戦略上で重要なのは、人的リソースの「モチベーション」と「ボリューム」のコントロールです。一般的には評価制度や報酬制度は、社員のモチベーションに大きな影響を与えます。ただし、戦略を実現するために、リソースを際限なく使うことはできません。よって、適切なリソース配分が必要になります。採用や育成、異動配置、退職など、リソースの量や質をコントロールすることも重要です。実際に戦略を遂行する、社員のモチベーションの向上と適切なボリューム維持のための仕組みを作り、運用していくのが人事の重要な役割となります。
従業員のモチベーションも必要なリソースも足りていないのに、経営陣が声高に「自律」を求めるだけでは、現場は疲弊するばかりです。社員が自分で考えるための環境を整えることが人事戦略の役割といえるでしょう。逆にいえば、モチベーションを高く保ち、リソースも十分な状態であれば、前述のリクルートのように、環境が変わっても社員から発案された事業によって生き残ることができるといえます。
コロナ禍の人事戦略として、よく「雇用調整」がクローズアップされます。採用をストップし、社内の人員の異動を積極的に行ったり、雇用調整助成金制度を利用して一時的に休業させたり、一定数の人員を削減したりして人件費を抑え、この苦しい状況を乗り越えようとするものです。
もちろん、人事戦略上、雇用調整の実施は必要ではありますが、コロナショックで事業が大変だからという理由のみで雇用調整を行っていると、従業員の間では不安ばかりが大きくなってしまいます。不安が大きいままでは、とても自律的な組織は構築できません。
そこで、雇用調整によってリソースを再配分することが、今後の経営戦略や人事戦略上どのような意味があるのか、意図を丁寧に説明し、納得してもらうことが必要になります。
ここでは「雇用調整」の例を挙げましたが、「企業理念や事業戦略を実現する」という観点で、人的リソースを動かすための仕組み(組織や制度)を適切にチューニングする。これが、今の人事担当者には求められていると思います。
(グロービス講師 良田智雄、取材・構成/吉田 瞳)