「アジアのシリコンバレー」と呼ばれ、世界最先端都市として近年、急速に注目を集めている中国の都市・深セン。この街は、なぜ、世界の耳目を集め続ける街に変われたのだろうか?7月31日に発売した、筆者らによる最新作『プロトタイプシティ』では、深センイノベーションを知り尽くした識者・経営者が集結し、成功の鍵に迫る。

中国・深センの街並み Photo:Liang Xiashun/gettyimages

G D Pはいまや日本の2.5倍
中国のイノベーションは本物なのか?

深センのイノベーションエコシステムについて講演させていただく機会は多いが、ときおり「イノベーションを生み出すためには、民主主義と知財を守る制度とが必要だ。中国にはその両方が欠けているではないか」との質問をいただく。

 その疑問はもっともだろう。民主主義と自由主義経済こそが社会を豊かにする、とのテーゼは日本ではごくごく当たり前の社会通念だ。ソ連が健在だった時代ならばまだしも、共産圏崩壊以後は疑問を抱く契機すらなかったのではないか。その意味では中国の台頭は久方ぶりに現れた民主主義への挑戦者と言っていいかもしれない。

 中国のイノベーションは本物なのか?言論の自由を欠いた国が本当に新たなアイデアを生み出せるのか?この懐疑は研究者にも広く共有されていると、神戸大学の梶谷懐(かじたに・かい)教授(中国経済)は指摘する。

 今盛り上がりを見せている「中国発のイノベーション」は、今後もはたして持続可能なのだろうか。

 主流派の経済学者の見解は概して否定的である。脃弱(ぜいじやく)な財産権保護、貫徹しない法の支配、説明責任を持たない政府の経済への介入といった中国経済の「制度」的特徴は、持続可能な成長のエンジンとなるイノベーションの障害物にしかならないように思えるからだ。

(中略)主流派の議論を要約すると、イノベーションの持続性を担保するものは、自由な言論、財産権、特に知的財産権に関する法制度などであり、中国には、それらが欠けているので、持続的にイノベーションを生み出すことはできない、ということになる。
(『中国経済講義』中公新書、2018年、192~194ページ)

 一般的な通念と主流学者の意見は一致しているというわけだ。しかしながら、「持続不可能」と思われながらも中国経済は着々と成長を続け、そのGDPはいまや日本の2.5倍以上に達している。はてさて、いつになったら「持続不可能」は到来するのだろうか。中国のイノベーションは本当にニセモノなのだろうか。