朝日が込めた大学経営陣へのメッセージ
5カ月前の事件がまだ解決していないと判断して報道することもあるだろう。そこで朝日新聞の記事を何度も読み返し、問題が解決していないとする根拠や指摘を探った。
「これだけの事件を起こしながら『辞任』ではおかしい」という主張が記事から読み取れ、ラグビー部や大学の対応の甘さを糾弾していた。以前、あるテレビ番組に一緒に出た弁護士によれば、「これはれっきとした暴行事件であり、辞任ではなく解任、もしくは訴訟が妥当な事件だ」という。それほどの事件なのに、大学側は暴力の実態を、前ヘッドコーチ辞任の形でうやむやにして幕引きした。記事ではそのことを問題視していた。
前述した「アメフト部問題あったのに」という見出しには、大学側が反省も改善もしていないとの指摘が込められているのだろう。この報道は、日大ラグビー部に対してというよりも、大学の経営層に向けた警鐘と理解すれば、前ヘッドコーチの辞任から5カ月たってからわざわざ報道したことも合点がいく。
朝日新聞がスポーツの暴力事件や暴力体質の改善に、このような強い姿勢を示したことは、スポーツ界の改革に向けて心強い追い風になるだろう。
筆者も、こうした運動部内の問題を部内の出来事にとどめず、大学の経営層がもっと真剣に対応し、厳しく改善する姿勢で臨むべきだとする主張には大いに賛同する。
日大ラグビー部の関係者によると、部としては1月に起きた部員の大麻事件をきっかけに、「部内に何か膿があればこの機会にすべて出し切ろう」との覚悟と合意のもと、部内に副部長(医学部教授)をマネジャーとするインテグリティーチームを作った。必要に応じて専門家や有識者に助言や判断を求める部内の制度だ。前ヘッドコーチの暴力問題も、この流れで選手側から告発された。
自己都合の辞任で済ませた判断が適切だったのかどうかの議論は必要としても、日大ラグビー部は朝日新聞の取材に対して部長と監督が十分な時間を取って対応したという。筆者も部員の証言を聞くかぎり、ラグビー部には「隠蔽」と糾弾される姿勢は感じられなかった。大学ラグビー部でこのような仕組みを導入したのはおそらく初めてだと、上部団体からも高く評価されたという。
それでも朝日新聞が「隠蔽」と見出しを打ったのは、やはり大学の経営層の対応への指摘と解釈すべきだろう。