「カジノの収益は教育、福祉、医療に回す」――。沈下が続く大阪経済の起爆剤として、橋下徹・元大阪府知事がぶち上げた大阪湾岸のIR(統合型リゾート)計画は、新型コロナウイルスの直撃で延期になった。IRと密接につながる2025年大阪万博の開催にも暗雲が垂れ込めており、“金づる”にされた関西財界の憂いは深まっている。特集『列島明暗 都市・地方財界・名門企業』(全15回)の#4では、関西財界の目下の悩みを追った。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
維新のエースは“イソジン”で信頼失墜
コロナ禍で米カジノ業者は及び腰に
「うそのような本当の話」――。大阪府の吉村洋文知事と大阪市の松井一郎市長が8月4日の記者会見で披露した、ポビドンヨードを含むうがい薬。「コロナに打ち勝てるのではないか」と吉村知事が安易に言及したこの会見は、すぐさま医師や専門家から否定され、厳しく批判される羽目になった。
少年時代から“やんちゃ”だった松井市長はともかく、九州大学法学部を卒業した弁護士でもある吉村知事については、「ちゃんと話ができる」(関西財界関係者)との評価があった。新型コロナウイルス感染拡大への対応で人気を博し、知名度が全国区となっていたところでの一連の発言で、インターネット上では「イソジン吉村」という不名誉なあだ名を付けられる事態となった。
そんな松井市長や吉村知事が率いる大阪維新の会肝いりの計画の先行きに、コロナ禍によって暗雲が垂れ込めている。
現在、急ピッチで埋め立て工事が進む大阪湾の「夢洲(ゆめしま)」。2025年に大阪万博が開催されるこの場所に、カジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致し、当初は24年度の開業を目指していた。
「ギャンブルを遠ざける故、(日本は)坊ちゃんの国になった。小さい頃からギャンブルをしっかり積み重ね、全国民を勝負師にするためにも、カジノ法案を通してください」「増税よりカジノ。収益の一部は教育、福祉、医療に回す。隣の兵庫県知事が反対しても無視。わいざつなものは全部大阪が引き受ける」――。
大阪維新の会の“創設者”ともいえる橋下徹氏は府知事時代の10年、IR法案の成立を目指す国会議員の勉強会でこのように発言した。橋下氏はその後政界を引退したものの、念願のIR法案は18年に国会で成立。夢洲では米カジノ大手のMGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの連合が今年2月までに事業者に応募していた。
ところが、逆風はコロナ以前から吹き始めていた。