ロシアでは、新型コロナウイルスの新規感染者数がピークをつけ、経済活動への制限も徐々に解除されつつある。延期されていた対ドイツ戦勝イベント、憲法改正の国民投票など国威発揚を意図したイベントも相次いで実施された。経済に明るい兆しが差し込んだようにみえるが、野党指導者の服毒への疑念などで対EU関係は悪化の公算が大きくなりつつある。新たな懸念が通貨ルーブルの足を引っ張っている。(第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
3月以降の原油価格急落で
冷え込んだ景気
ロシア経済を巡っては、GDP(国内総生産)に占める資源関連産業の割合が1割強程度にとどまるなど資源関連産業に対する依存度が高いわけではない。一方、GDPに対する輸出の割合は3割弱に達する上、輸出全体に占める原油及び石油製品関連の比率は半分を上回る。その他の鉱物資源を合わせると7割以上に達し、輸出の鉱物資源への依存度が高い。
よって、ロシア経済の動向は国際原油価格の行方に左右されやすい特徴がある。年明け直後にかけては、米中貿易摩擦における“第一段階の合意”を受けて原油価格は底入れする動きが見られた。しかし、その後は新型コロナウイルスのパンデミックによる世界経済の減速懸念の高まりを受けて、調整局面が続いた。
3月初めには2018年から続いたOPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアを含む一部の非OPEC加盟国(OPECプラス)による協調減産の枠組みが瓦解した。加えて、全世界的な金融緩和を背景とする“カネ余り”に伴う国際金融市場での“マネー・ゲーム”とも呼べる動きが強まり、国際原油価格は一時マイナスとなる異常事態に陥った。
なお、主要産油国のうちロシアが想定する原油価格の財政均衡水準は、近年の国際原油価格の低迷長期化を受けた構造改革などが功を奏し、中東産油国に比べても低い。とはいえ、その水準をも大きく下回る価格となったことはロシア経済に深刻な悪影響を及ぼした。