三菱陥落#2
Photo by Hirobumi Senbongi

8月末、三菱自動車の経営再建に尽力してきた益子修・元会長が死去した。出身母体の三菱商事と、アライアンスを組む日産自動車や仏ルノーとの“扇の要”の役割を果たしていた実力者の喪失は打撃だ。一方、三菱自の業績不振など自動車・モビリティグループが足を引っ張ったことで、三菱商事は2021年3月期に商社業界で利益首位の座を伊藤忠商事に明け渡す見通しだ。三菱商事は三菱自から出資を引き揚げることはないのか。一時は検討された三菱商事が日産へ資本参加する構想は消えてしまったのか。特集『三菱陥落』(全10回)の#2では、問題山積の自動車・モビリティグループを率いる三菱商事のキーマン、戸出巌・常務執行役員を直撃した。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

益子前会長の死去は痛手だが
三菱商事から「新会長」は送らない

――三菱商事出身の益子修元会長が退任からわずか20日で逝去されました。“扇の要”の役割を果たしていた実力者の喪失は打撃が大きいです。

 ダイムラーに交渉を打ち切られたり、車が燃えてしまったりと三菱自が最も厳しい時期の2004年に、益子さんは三菱商事から派遣されました。それ以降16年間、人生を懸けて三菱自の再生・発展に全ての時間を注いだ方です。突然ああいう形で逝去されたことに関して、私にとっても大先輩ですから本当に心から残念に思っています。

 一方で、益子さんが“最後の仕事”として三菱自の方向性をしっかりと決めてくれていました。仏ルノー・日産自動車・三菱自動車のアライアンスについては、5月に、三菱自が地域ではASEAN(東南アジア諸国連合)とオセアニア、技術商品ではPHEV(プラグインハイブリッド車)に注力するという役割分担が示されています。

 7月末の中期経営計画では、本当に厳しい内容にはなりましたけれど、もう一度しっかりと再生できる道筋を示してくれました。そういう意味では、残された後輩諸氏に対してしっかりと礎を築いていただいた。5月や7月には、益子さんの体調は相当難しい局面だったはず。そこには、最後に残された人間たちにしっかりした形を残したいという気持ちがあったのではないかと思います。

 そして、加藤隆雄・三菱自CEO(最高経営責任者)を筆頭に経営陣で役割分担して、全社員がスタート地点に立ってやっていこうとしている。私の立場で言えば、三菱商事は三菱自の株主、「第二株主」としてサポートしていく。

――「第二」にこだわりますね。確かに出資比率では日産自動車に次ぐ二番手ですが、三菱自への経営の関与度で言えば、日産を追い抜いたのではないでしょうか。

 それは恐れ多いです。あくまでも第二株主なんです。今回の中計での柱として、ASEANシフトがあります。三菱商事は長年事業を展開している地域ですから、株主、かつ事業パートナーとして中計を貫徹するためにしっかり支えていきます。

――加藤CEOは会長代行を兼任しています。三菱商事から三菱自へ後任会長を送るのですか。

 全く考えていません。加藤さんの体制でいくことは明白です。図らずも、連合を組む日産とルノーのトップが交代し、益子さんだけが残っていましたが、これから新しい体制を敷くということです。

 ゴーン(カルロス・ゴーン・元日産会長)さんの件があったことで、昨年に三菱自は指名委員会等設置会社へ移行しています。会長選任には、透明性を持って、諮問委員会や取締役会というプロセスを進める会社。第二株主の存在でしかない三菱商事から、三菱自会長人事に関して何か意見するというのはおかしいです。嘘はありません。

――今の三菱自経営陣には、三菱商事出身者と日産出身者、外部出身者、生え抜きといろいろな背景を持つ幹部がおり、バラバラのマネジメントになっています。それをまとめてきたのが実力者の益子さんであり、今の体制で誰がどうやって経営チームをまとめられるのかは甚だ疑問です。

 混成部隊ですよね。競合自動車メーカーに比べて、三菱自の経営陣が粒ぞろいになっているかどうかというのはあるかもしれません。ただし、三菱自には歴史もあるし、加藤さんがCEOに就任されてから1年を超えて、十分に経営をお任せできる安心感があります。

――マネジメントチームの難しさもさることながら、エンジニアがモチベーションを維持するのには限界がきていると思います。『ランサーエボリューション』や『パジェロ』がなくなり、今度はPHEVの主戦場である欧州向けの独自開発はしない決定をしました。三菱自の個性となる技術にまたストップをかけられて、技術陣はもはや何を「よすが」にすればいいのでしょう。

 そこが“アライアンスの妙”でもあって、ルノーや日産を通じてPHEVの技術は受け継がれていきます。また、欧州で今起きている環境規制の“超”厳格化の波は、いずれ日本や米国やASEANにもやって来るわけなのでPHEVは大事な技術です。三菱自のようなものづくりの会社にとって、アイデンティティーやレゾンデートル(存在意義)が必要だと痛感しています。僕はPHEV技術はその象徴的なものとして十分に生きていくだろうし、かつ今後エンジニアリングに携わる生え抜きの社員の心のよすがになってくるだろうと思っているんです。

――それはどの程度、本気でおっしゃっていますか。三菱自、日産、ルノーがそろって赤字に転落し経営危機にある状況で、3社連合が崩壊する暴発リスクは高まるばかりです。アライアンスの協業よりも、3社はまずは自社の経営再建を優先しなければならず、アライアンスで何か果実をとるという次元にはありません。