三菱陥落#10

「鉄の結束」を誇る国内最強のエリート集団、三菱グループの瓦解は止まらないのか。三菱グループの中核企業が業績で足踏みを続けている間にも、スマートシティに代表される新領域では、“オールジャパン”のチームづくりを掲げるトヨタ自動車やNTTグループが企業連携を深めており、三菱経済圏500兆円の規模に肉薄する勢いを見せている。特集『三菱陥落』の最終回となる#10では、信用情報会社の東京商工リサーチの協力を得て7大企業グループの経済圏を独自データで分析するとともに、日本を代表するリーディングカンパニーで繰り広げられる「企業囲い込み」競争の最新事情を追った。(ダイヤモンド編集部 浅島亮子、千本木啓文)

「組織の三菱」を脅かす6大企業グループ
技術・人材の獲得を目的に提携加速

  国内最強のエリート集団、三菱グループ「御三家」が創業150周年の節目に緊急事態に陥っている。“長男”の三菱重工業は公的支援がささやかれるほどに凋落。“次男”の三菱商事と“三男”の三菱UFJフィナンシャル・グループは、業界の利益首位の座から転落する見通しだ。

 三菱、三井、住友に代表される財閥系グループは、社長同士で情報交換を行う「社長会(三菱金曜会など。現在は親睦団体)」を結成し、株式の持ち合いによって相互の経営安定化を図ることで企業集団を形成していった。

 中でも三菱グループは「鉄の結束」を誇ってきた。その背景にあるのは、経済合理性を超えた「スリーダイヤ」という強いブランド力だ。だが、中核企業の低迷により、「組織の三菱」を誇るエリート企業集団はグループ瓦解の危機に直面している。

 その一方で、日本を代表するリーディングカンパニーの間では「デジタル」という新領域での提携が加速している。旧財閥などの出自、業界の垣根、過去の取引関係、メインバンクの違いといった旧来の“縛り”を超えて、全く新しい企業連合が形成されつつあるのだ。その中心的存在として脚光を浴びているのが、今年2月に資本提携したトヨタ自動車とNTTだろう。

 米中対立などの地政学リスクの高まり、世界的な環境規制の厳格化、テクノロジーの破壊的革新――。「変数」が多く不透明な時代に、テクノロジー投資と優秀な人材獲得は企業生き残りの生命線になっている。

 残念ながら米GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)らITプラットフォーマーと伍して戦える企業は日本には存在しない。新型コロナウイルスが感染拡大して以降、これらのITジャアントはさらに強くなっている。

 それでも、強い企業が束になって戦えばチャンスはあるのではないか――。今生まれつつある企業グループの形成は、大激変の時代を乗り切る一つの予防的手段でもある。

 トヨタが標榜するのは「オールジャパンの仲間づくり」だ。仲間という言葉には優しさがあふれているが、要するに、競争力のある技術・人材を持つ企業を囲い込むという意味である。

 そして、業績が低迷気味な三菱商事だが、それをはね返す将来の起爆剤として、「デジタル戦略」を大々的に掲げている。その推進には、デジタル変革に共鳴する企業群の存在が欠かせない。

 いみじくも、三菱商事とトヨタは全く同じ未来を描いているといえるのだ。では、その全貌を見ていこう。