いつの時代にも、総合商社は時代の“半歩先”を行く分野への投資を急ぐ。現在、商社がこぞって注力しているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)領域。商社が対面する「主要業界」の効率化とイノベーションで稼ごうというビジネスモデルだ。壮大なビジョンをぶち上げる三菱商事に対して、伊藤忠商事、三井物産、住友商事はどのような戦略で迎え撃つのか。特集『三菱陥落』(全10回)の#5では、大手商社のDX戦略の中身を徹底検証し、課題を追った。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
三菱商事と伊藤忠が全面対決
「食品流通DX」を舞台に火花を散らす
三菱商事と伊藤忠商事が、また新たな領域で激しい火花を散らすことになりそうだ。
純利益で壮絶なトップ争いを繰り広げる商社業界の雄、三菱商事と、非資源を強みに「我が道」を行く暴れん坊の伊藤忠。2020年3月期には辛くも首位を守った三菱商事だが、21年3月期には伊藤忠にその座を明け渡す見通しである。両社は常日頃から互いに一挙手一投足が気になる存在なのだ。
そんな両社が今、最も注力している「デジタル領域」で、“着眼点”が丸かぶりするという事態に直面している。両社が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX。データとデジタル技術によって、ビジネスモデルを変革したり、新しい事業価値を創造したりすること)戦略の「一丁目一番地」の対象として、食品流通業界の収益改善を挙げているのだ。
着眼点が重複したのも無理はない。共に食品・食料など生活産業部門を強みとする商社であるし、三菱商事はローソン、伊藤忠はファミリーマートといった具合に、コンビニエンスストアという小売り業態を子会社として持っている。食品流通業界の課題をデジタル技術で解決しようと考えるのは至極当然のことだ。
だが、同じ分野での全面対決ではあるが、三菱商事と伊藤忠とでは全くアプローチが違っている。なぜなのだろうか。