トヨタ一強#3Photo:Nick Brundle Photography/gettyimages

コロナ禍の中、日本自動車工業会のサプライヤー支援プログラムの発足を主導したり、1兆2500億円の借り入れを行って取引先の「もしも」に備えたりと、トヨタ自動車はサプライチェーンの保護に余念がない。しかし、サプライヤー関係者は、そんな“調子の良い”施策に熱狂はしていない。自動車部品業界の実態はもっと複雑で、競争力を保ち続けるために抜本的な改革が必要とされているときだからだ。特集『トヨタ「一強」の葛藤』の#3では、自動車業界が直面するサプライチェーンの課題について追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

踊るのはメガバンクのみ
自工会の支援策が「期待外れ」な訳

「三菱UFJ銀行は、三井住友銀行に『負けた』ってことだよ」。そう言って三菱UFJ銀行OBはほぞをかんだ。

 三菱UFJ銀行のOBが見過ごせなかった案件とは、日本自動車工業会(自工会)が6月23日に発表した「助け合いプログラム」のことだ。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、絶対に失ってはいけない要素技術や人材を守ることを目的としている。

 内容は、つまるところ融資支援である。資金調達を早期に必要とする自動車関連企業が取引銀行から迅速に融資を受けられるようにするため、融資に際し、自工会が銀行に預け入れる預金を担保にして信用保証を行うというものだ。先のOBは、このプログラムの“ハブ”となる自工会預金の預入先が、三井住友銀行に収まったことを嘆いているのである。

 というのもこの助け合いプログラム、自工会のサプライヤー支援策とされていながら、「あれは完全に『トヨタ案件』だ」と複数の競合メーカー幹部に言わしめるトヨタ自動車主導の施策なのだ。

 歴史を振り返れば、トヨタにとって三井住友銀行は因縁の相手だった。戦後、いわゆる「ドッジ不況」や自動車の販売自由化に伴う自動車業界の混乱によりトヨタが深刻な経営危機に陥ったとき、三井住友銀行の前身である大阪銀行(住友系)が「機屋に貸せても、鍛冶屋には貸せない」と緊急融資を断ったのが原因という。

 以来、トヨタが住友系との取引を再開したのは、銀行側が合併を重ねて三井住友銀行が誕生してからだといわれている。それだけに、2018年に住友銀行出身の工藤禎子・三井住友銀行専務執行役員がトヨタの社外取締役に就任すると、愛知県の金融機関は「あり得ないことが起こった」と騒然としたものだが、そこに畳み掛けるように発表されたのが今回のプログラムだった。

 いまや日本を支える自動車産業の「一強」となったトヨタは、メガバンクならば絶対に食い込みたい相手である。特に三菱UFJ銀行は愛知県を地盤とする旧東海銀行を前身の1行として持ち、トヨタの主力行と位置付けられてきた。トヨタと住友系の“歴史的な雪解け”ともいえる本件は、金融界にとって見過ごすことのできない大事件といえたわけだ。

 ただし、この助け合いプログラムに今後の経営を左右する有用な施策として大きな意義を感じているのは、メガバンクばかりだといえるかもしれない。自動車業界やメガバンク以外の金融業界の関係者はむしろ困惑気味だ。

「このプログラムには実効性がないんじゃないですかね……?」