企業直撃 新・地政学リスク#9Photo:Bloomberg/gettyimages

日本は、世界一の液化天然ガス(LNG)の取扱量を誇り、LNG市場で圧倒的な存在感を示していた。しかし中国が台頭し、さらには米中対立の波が押し寄せている。特集『企業直撃 新・地政学リスク』(全14回)の#9では、三菱商事、三井物産、ジェラ、東京ガスのLNG盟主に迫る陥落危機を追った。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

LNG取扱量世界一の座を
中国に奪われようとしている日本

 さかのぼること半世紀以上の1969年11月4日、もやがかかる海上から、その船は姿を現した。まるで、新しいエネルギーの時代の幕開けを告げるように。

 全長240メートルの液化天然ガス(LNG)運搬船「ポーラ・アラスカ号」は、米国アラスカ州から約6000キロメートルの航海を終え、横浜市の東京ガス根岸基地に到着。日本に初めてLNGが導入された瞬間だった。

 都市ガスや火力発電所の原料となるLNGは、その名の通り天然ガスを液化したもの。自前の資源を持たない日本にあって、石油と同様に天然ガスも輸入に頼らざるを得ない貴重なエネルギー源だ。

 69年に導入が始まってから、日本は世界ナンバーワンのLNG取扱量を誇り、世界のLNG市場で圧倒的な地位を確立している。日本が長年3割近い世界シェアを占めてきたため、LNGは「日本のために開発されたエネルギー」とまでいわれた。

 故に、LNGビジネスの担い手として、天然ガス田の開発といった上流や、天然ガス液化施設の建設など中流の事業に携わる三菱商事や三井物産といった総合商社、LNGの世界最大の買い手である東京電力と中部電力の火力発電・燃料調達部門が統合したジェラ、都市ガス最大手の東京ガスなどの電力・ガス会社が大きな存在感を示してきた。

 しかし、盛者必衰のことわりあり。半世紀にわたってLNG世界一の地位を維持してきた日本が、その座を脅かされている。中国がLNGを“爆買い”し、日本を猛追しているのだ。