各国紙幣各国のGDPが史上最悪の落ち込みを演じているにもかかわらず、マネーが急増しているのはなぜか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

今、なぜ?
マネー急増の読み解き方

 コロナショックによって各国の実体経済が負ったダメージは甚大であり、あらゆる経済統計にその傷痕を見出すことができる。その中で、異様な動きを示している統計として、主要国のマネーサプライ(日本ではマネーストックと呼ぶ)の急増が耳目を集めている。

 マネーサプライは、端的には実体経済における貨幣量であるため、これが増えれば将来的に物価は上昇が見込まれるし、結果的に為替にも無視できない影響を与える。市場参加者にとって、考察しておく価値のある論点である。

 本格的な議論に入る前に、マネー関連統計の定義を整理しておこう。日本の統計を例として解説するが、欧米でも大きな差はない。

 日銀の公表するマネーストックは「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」を示す統計だ(解説は日本銀行HPを参照している)。中央銀行から金融部門に供給された通貨の供給量であるベースマネーの増加が、マネーストックの増加へ繋がる(そして物価を押し上げる)という考え方がこの先にあるわけだが、黒田体制下で実施された大規模国債購入とその対価としてのベースマネーの急増をもってしても、マネーストックは相応に増えなかった(この点を掘り下げると本稿の趣旨とずれるので、割愛させていただきたい)。

 マネーストック(以下、単にマネーとする)の保有主体は、一般法人、個人、地方公共団体などが対象となる。「金融機関・中央政府以外の経済主体」という表現が分かりやすいかもしれない。

 この際、マネーの範囲をどう仕分けるかは国によって異なるが、一般的にM1、M2、M3、広義流動性と、対象範囲が拡がっていくように分類される。最もよく用いられるのはM2であり、日銀の展望レポートもM2の動きを評価の対象としている。