◇松尾芭蕉のすごさ

 歴史上、日本人で最もThink Differentしたのは松尾芭蕉だ。MITメディアラボのセザー・ヒダルゴ氏が考案した、歴史上の人物の影響力を点数化する「ヒストリカル・ポピュラリティ・インデックス(HPI)」という指標がある。具体的には、ある人物に関するWikipediaについて、「その人のページが何カ国語に訳されているか」「どれくらいのページビューがあるか」を計算する。すると、意外にも松尾芭蕉が1位であった。なお、2位以下は織田信長、昭和天皇、葛飾北斎、徳川家康と続く。

 松尾芭蕉といえば、「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句が有名だ。この句がなぜすごいのか。まず、「古池や」は「侘び」を表している。「古池」は「池」と違い、かつて池であったものをイメージするため「侘び」といえる。次に「蛙飛び込む」は「雅さ」と「下品さ」の象徴である。『新古今和歌集』以後、蛙の鳴き声は雅の象徴であった。しかし、その蛙を鳴かせずに飛び込ませるのは下品ということになる。そして最後の「水の音」は「寂び」を示す。「寂び」とは、物事の生命の本質がみずみずしく現れているということだ。つまりここで初めて池が死んでいなかったことがわかる。

「生命のいない白黒の世界」から「みずみずしい生命あふれるフルカラーの世界」へとドラマチックに展開する。そんな句を生み出せるのが、松尾芭蕉のすごさなのだ。

◇破壊的イノベーション

 では、芭蕉をThink Differentの観点から分析するとどうか。そもそも、新しいアイデアを生み出すには、論理、直観、大局観の3つが必要である。

 中でも最も鍛えるのが難しいのは大局観だ。これまで考え尽くされた問題を解くためには、大局観が欠かせない。なぜなら、大量の情報を新しい方向から考え直し、誰もたどり着いていない空白地帯を見つけなければ、答えが出ないからだ。しかし、一見「やり尽くされている」ような事象も、視座の「軸」を変えることで「空き」を見つけられる。破壊的イノベーションは、アップグレード(質)とアップデート(新しさ)のように、「あちらを立てたらこちらが立たない」という「トレードオフ構造」を両立させたところに起こるのだ。