インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「家にいながら旅したことがない土地を知れる」7冊Photo: Adobe Stock

[質問]
馴染みのない国や時代について学ぶ良い方法はないでしょうか?

 私はいま小説の構想を練っているのですが、相当な量の資料を集める必要が出てしまいました。というのも、私が書こうとしている物語は冷戦時代のロシア~東欧のあたりを舞台にしているからです。

 私は日本を出たことがなく、冷戦時代のことも知りません。一般教養程度で世界史の知識はありますが、小説として読むに耐えるレベルのディティールで異国の人々を描くとなると、いったい何から手をつければ良いのかと途方に暮れてしまいます。

 まったくの部外者が異国のことを書くのですから、現地の人からみたら違和感が出るのは仕方ないと割り切っています(西洋人の書く日本が往往にして滑稽なのと同じように)。とはいえ、せめて日本人が読んだときに違和感が出ない程度の説得力は持たせたいのです。

 とりあえず『入門 〇〇の歴史』みたいな新書などを一通り読んだ上で、そこから参考文献を辿って興味の出たものを読んでいく、というのは一つの手です。

 とはいえこのやり方は少し退屈しそうだなとも思うのです。個人的には、客観的な事実の羅列よりも、ある時代やある個人の生活の痕跡が生々しく読み取れるような書物に惹かれます。その方が読み物として単純に面白いし、心に残るし、小説を書く資料として見た場合でも生々しく具体的な「手触り」のようなものが重要になってくるように思うからです。

 なので、旅行記やルポタージュの類なんかを探してみた方が良いようにも思っているのですが、そういう本をどうやって探せば良いのか分からずにいます。何か良い資料の探し方があったら教えてもらえないでしょうか?

図書館のレファレンスカウンターで、ぜひ聞いてみてください

[読書猿の解答]
 もっとも効率的なのは、足を運べるうちで最も大きな図書館へいき、レファレンスカウンターでこの質問をされることです。多くのヒントと探し方、そして大量の文献を知る(手にする)ことができるでしょう。

 不幸にも図書館やレファレンスカウンターを利用することが難しい場合、探索の始まりに使えそうな書物をいくつか挙げてみます(これらは比較的高価で、しかも品切れしていることも多いので、本当は図書館でご覧になるのがおすすめなのですが)。

 まずは平凡社の『新版 ロシアを知る事典』『新版 東欧を知る事典』。これはこの分野の概説書+年表+事典を兼ねたもので、基礎知識をおさえてより詳しいことを知る端緒となるものです。

 今回の場合、知りたいのが冷戦期なので、旧版である『ロシア・ソ連を知る事典』なども見ておきたいところです。

 同じ考えから、同時代に出た現地案内本があると歴史書では拾いにくい情報にアクセスできます。たとえば、読売新聞社から1976年刊行の『ソ連・東欧総覧』やもう少し新しい『ビジネスマンのための東欧情報』(有斐閣、1992)などが役に立つかもしれません。

 また、手記やルポルタージュを探すには日外アソシエーツから出ている『ノンフィクション・ルポルタージュ図書目録』が便利です。

 他には日本十進分類だと292あたりに、旅行記の棚があるので、ここで東欧/ロシアを旅した人たちの旅行記を探すのもよいかもしれません。近くの棚には旅行ガイドもありますが、この種のガイドは雑学の宝庫です。これも古い時代のものも含めて探してみるといいでしょう。旅行ガイド・紀行文などを探すには日外アソシエーツから出ている『紀行・案内記全情報』が便利です。

 ぱっと思いつくのこのあたりですが、レファレンスカウンターであればもう少しマシなアドバイスをしてくれるはずです。