名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第33回。本邦における黎明期から慢性痛医療の研究に打ち込み、30年余りに渡って現場を牽引してきた柴田政彦医師(奈良学園大学保健医療学部教授)を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

「心配するな、患者はそのうち来なくなる」
根本的解決にならない治療をつづけていた

柴田政彦(しばた・まさひこ)奈良学園大学保健医療学部教授、千里山病院集学的痛みセンター医師 柴田政彦(しばた・まさひこ)奈良学園大学保健医療学部教授、千里山病院集学的痛みセンター医師 Photo by Hiromi Kihara

「今、世の中の痛みに対する考え方が大きく変わろうとしています。つい先日も、国際疼痛学会が痛みの定義を41年ぶりに改訂しましたね」

 2020年7月下旬、千里山病院(大阪府豊中市)集学的痛みセンターの柴田政彦医師(奈良学園大学保健医療学部教授)はうれしそうに教えてくれた。柴田医師は、本邦における黎明期から慢性痛医療の研究に打ち込み、30年余りに渡って日本の現場を牽引してきた。

「これまでの定義はわかりづらく、組織損傷と痛みの関係も誤解されやすい面がありました。今回の改定では、慢性痛は悪いところがなくても痛みが出るということをしっかり示し、かつ『痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度で影響を受ける』『痛みと侵害受容は異なる現象』など、『6項目の付記』が付け加えられ、だいぶわかりやすくなりました。このようにはっきりと定義されたことは、今後の日本の慢性痛医療にも大きな影響を与えるでしょう」