「保健所の人が、いったい何ができるのか、よく分からなかったんです」

 自分に考えられるリスクは何なのか。弘章さんは、インターネットで検索した。

「措置入院」というワードが出てきた。ただ、時間がなかった。心の準備はできなかったが、「せっかく家に来てくれるのなら、会ってみよう」と思った。

 強制的に入院させられるのかなと思った。でも、ビビってもしょうがない。弘章さんは、自分から玄関まで迎えに行った。

 自宅に訪れたのは、県の保健福祉事務所で仕事する芦沢茂喜さんという人だった。『ひきこもりでいいみたい』という著書も出しているソーシャルワーカーだ。

 弘章さんは、元々親から依頼された支援者だから、親の味方で来たのだろうと勘繰り、当初は信じていなかった。ところが、会ってみたら違った。

 芦沢さんから最初にかけられた2つの言葉を今でも覚えている。

「あなたの利益は守る」
「何かあったら言ってください。私から父親に伝えます」

 何も強要されなかった。それどころか、衝突していた親との間に入ってくれて、自分の利益を100%守り、思いを代弁してくれた。

「親との間に入ってくれたら、気持ちを切り替えられるし、ずっと頭の中で怒りが増幅されることはない」

 弘章さんは、怒りすぎて寝込むこともあった。

 そんなとき、芦沢さんはその場で父親に電話をかけて思いを伝えてくれる。親がどんな受け止めをしていたかの確認もできた。

 芦沢さんに親との衝突の緩衝材になってもらい、親子で話ができるようになったという。

 そのうち、芦沢さんが親子の間に入ってくれているのに、弘章さん自身は何もしていないことに気づいた。